第172話 ヴァルツ・モア・ブルック村
イングマルが唯一みんなに強制していたのは粗末で質素な食事なのだが、みんな村づくりを始めてやっとイングマルが粗末なイングマルメシにこだわったことが理解できるようになった。
長期保存ができ入手しやすい穀物は「どれだけもつか?」という計算がしやすく、単純に一日の消費量をかけ算すれば良い。十分確保すると安心感がある。
心身にゆとりがあるというのは先々を考えやすくなり、生存のためのみの行動にとらわれず楽しみを見出すことができる。
イングマルはすぐ魚釣りができる環境をとても喜んでいた。
作業が一段落するとみんなは馬で森の中を駆け回ったり、ローズはフランシスと剣の練習をし、フリーダは詩や歌の練習をしていた。
村ができても旅しているときの暮らしとなんら変わりない生活をみんな楽しんでいた。
イングマルは砦の防御機能を上げるため、何重にも渡って仕掛けを作った。
みんな「やりすぎではないか?」と思っていたが、イングマルにとっては要塞作りが楽しみであるかのように黙々と仕掛けを作っていた。
時には自分で作った仕掛けがちゃんと機能するか、攻手の側のつもりで攻撃を試してみたりして確かめた。
砦として機能するようになってきて、村に名前がないことに気がついた。
「この村の名前をどうするか?」みんなで考えた。
フランシスの領地なのでフランシスに決めてもらおうと思ったがフランシスも「皆が決めてくれ」と言う。
みんなイングマルを見たがイングマルは「ローズとおかしな仲間たちの村」か「放蕩娘のつどいし村」といった瞬間却下され、二度と聞く耳を持ってもらえなかった。
みんないろんな好きなものの名前をつけようとしたが、フリーダの「ヴァルツ・モア・ブルック村」となった。
森の湿原の砦という意味らしい。
イングマルは「長いし、言いにくい」と言っていたが、みんな「放蕩村よりまし!」と一斉につっこまれた。
結局イングマルは略して「ブルック村」と呼んでいた。
要塞として機能が整い干草作りも一段落するとイングマルはみんなを集めて「訓練する!」と言い出した。
要塞の機能と仕様を得意満面に解説し、仕掛けの使い方をみんなでテストした。
イングマルの喜びと、はしゃぎようを皆引き気味に見ていた。
しかし確かにこの村の高い防衛力は安心感があった。
砦の訓練を終えると湿原を知るため、船を使った戦闘訓練も行った。
水深が浅いのですぐ足を着きそうになるが足をついて立ったが最後、はまり込んで抜けなくなる。
専用のかんじきを履かないといけない。
湿原の特徴をみんな身をもって体験していた。
村の周囲の抜け道や水場などをみんなで把握したあと、少しずつ一人一人の家を丸太で作っていった。
新しい領主と村ができたことが少しずつ周囲の町や村にも伝わっていった。
イングマルが買い付けの時に行った先で話していたので興味を持った行商人たちが少しずつやってきた。
村にはまだ特徴的な産品がなかった。
せいぜいかごと炭ぐらいなもので、わざわざ買って帰るにはかさばるので商人も購入したがらなかった。
だが商人は村のみんなが食べていたビスケットを食べてすごく気に入って、大量に仕入れを申し出た。
ヨアキムの銀細工商品もすごく評判になった。
ビスケットはどこにでも似たようなものがあるのだが、えん麦をベースにして松の実とはちみつとバターをたっぷり練り込んで焼いてある。
この村のものはとても美味しく長期保存もできるので具合がいい。
そば粉のガレットもすごく美味しいので、フリーダ達が中心になって店を出すことにした。
広場近くに宿屋と一緒になっている小さな店をみんなで作り、それを目当てに食べにくるものがやってきた。
ガレットだけでなくフリーダの料理はすぐに評判になった。
みんな緊張しながらウエイターを交代でして馴れると楽しかった。
たちまち美女揃いの店は他方からやってくる行商人で賑わうようになった。
そんな行商人仲間から、北方の国境近くで大規模な盗賊団の討伐がいよいよ本格的に始まると聞いた。
「戦いが始まれば何かと物の値段が上がるな。」とイングマルは考え「値段がうんと高くなってから物を売ろうか?今のうちに物資を買い込んで、もっと値上がりしてから売ろうか?」などと考えていた。
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