第170話 帰還の終わり
ヨアキムの彫金師としての腕は確かなようで、銀食器や宝飾品からバケツ、甲冑など何でも作れた。
クロスボウの金具なども精度の良いものが作れた。
鍛冶屋のフランクもそうであったが職業柄、金属に興味のある者の共通の性格なのか、イングマルの短剣の鋼に興味津々だった。
青黒く鈍く光る剣、研いでも研いでも青黒い鋼は彼らにはどうしても作れないものであった。
サビているだけならば研げば濃い色は落ち新しい光沢が出るのだが、この鋼はなぜか青黒いままだ。
名剣と呼ばれる剣に共通している特徴である。
多くの金属加工に携わる者はこの鋼を作り出すのを生涯の目標にしている者もいる。
イングマルはこの短剣はたっぷり血を吸っているからだと思っている。
イングマルはそんな職人の思いを知ってか知らずか、戦闘の時だけでなく乱暴に普段使いで使っている。
時には地面を掘ったり狩りで仕留めた毛皮を剥いだり、崖を登ったりする時の足場の代わりにしたりもしている。
剣が喋ったら文句を言いそうな使い方である。
ヨアキムの作る商品は一番高値で売れるのだが、他の者と同じくみんなで均等割でいいと言う。
安全な居場所と心強い仲間とおいしい食事、これらがあるだけで十分満足であった。
それに少し一緒に旅をしただけで皆が優秀だとわかった。
幼い娘も彼女たちを見習って日々の作業を手伝っている。
皆といれば安心だった。
中でも頼りになった、ウッラ、カーラ、モニカ、アリソン、ブレンダは騎射専門のメンバーだったが、彼女たちの村は幸いみんな近くだった。
これからみんなで作る村からも近い。
馬でかければ半日程だった。
頼もしい仲間が近くにいるとわかっただけで安心だった。
こうして、とうとう長い旅が終わりメンバー全員ふるさとに帰ることができた。
残念な結果となってしまった者もいたが、その者たちのためにこれから村づくりを始めることになった。
近場のウッラ、カーラ、モニカ、アリソン、ブレンダは数日してもうみんなの元にやって来た。
彼女たちは家に帰って初日は祝いとなり、二日目はゆっくり休み、3日目以降、以前の習慣に引き戻される生活が始まった。
初めは「よかったよかった」と喜んでくれていた村の者たちもやがて彼女たちが売られ手篭めにされた事に興味津々だったのだが、彼女たちがあまりに何事もなく振る舞い以前よりはるかにしっかりした大人になっているのを見て拍子抜けしてなんだか可愛げがないと思い始めた。
なまいきだと思うようになってきた。
立派な馬を持って帰ってきたことも、ひがみの一因だった。
一度そう思うと坂を転がるように陰口を叩くようになり、弱い者いじめのターゲットとなっていった。
初めは彼女たちはくだらなさすぎて無視していたが、両親は心穏やかではなかった。
両親は何とか娘が目立たないようにしようとあれこれといらぬ気遣いを始めた。
まず武器が取り上げられ、衣服を変えられ、あらゆる言動が制限された。
読み書きができるようになっていたことも村の習慣に反することであり禁止された。
多くのことは我慢できたのだが、なにより彼女たちが我慢ならなかったのは乗馬が禁止されたことだ。
もう彼女たちが昔の生活に戻ることは不可能だった。
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