第155話 準備
工房の他の職人たちも、美しい女戦士のことを聞いて集まってきた。
さらに数百の盾とクロスボーも注文したいことを相談した。
「国からちゃんと予算は出るので安心してほしい。」
と言うと、親方はすぐそれぞれの職人の親方の元へ使いを出した。
本当は彼女たちには戦闘には参加して欲しくなかったのだが、彼女たちは「自分たちをつけ狙う人買い団を討伐するのに黙って見ていられない、何と言おうと参加する。」と言って聞かなかった。
注文した剣のスタイルはローズの持っているものをサンプルにし、それぞれに長さを合わせて作ってもらうことになった。
ついでにローズの剣もプロに見てもらい、大丈夫かどうか確かめてもらった。
みんなの剣はすぐ出来るのだが、問題はクロスボーだ。
イングマルは、300丁以上のクロスボーと盾を注文した。
盾は粗末な板張りでいいので、知り合いの大工を総動員してすぐ出来るのだがクロスボーはそう簡単にいかない。
これもイングマルはサンプルを渡し、部品を規格化し早く生産できるように注文した。
全て同じ部品にすることで、故障したときや破損したときなどにパーツを交換したり、同じ矢を使うことができる。
イングマルも工房の作業場を借りて、クロスボーのフレームを削り出していた。
クルミ材が1番いいのだが、この際贅沢は言っていられない。
楢、ブナ、樫など、ありあわせも使うことにした。
彼女たちも剣が出来るまで手伝うことにし、流れ作業で材料を斧や鉈で荒削りして、だんだん形にしてゆく。
金具や仕掛けの部分は正確に合わせないといけないので木型の冶具を作り、それに合わせて削って行く。
みんなで黙々と流れ作業をしていくと、たちまち300以上のフレームができた。
金属の加工は鍛冶職人に任せて、細かい仕上げをヤスリでかけて行った。
最終組み立てを行うが、彼女たち全員クロスボーのベテランなので組み立てにも仕上げにもノウハウを知っている。
完成したものはすべて調整済みで、すぐに使える状態だった。
彼女たちの仕事ぶりを見て、工房の職人たちはすっかり感心してしまった。
ひょっとすると、自分たちより腕がいいのではないか?
300丁ものクロスボーの仕上げは大変そうだが、一人当たり15から20丁ほどなのでそれほどでもなかった。
矢作りの方が大変だった。
全員に1人500本以上のノルマをイングマルに課され、黙々と矢づくりをしていた。
結局彼女達も武器造りに携わり、食糧等の物資集めは後で皆で当たることになった。
クロスボウと盾が300丁以上そろうころ、ジャンとフランシスに会い人員のことを聞いた。
良いニュースは、弓兵を80も新しく雇うことができた。
弓も矢も揃っている。
もうひとつの良くないニュースは、やはり兵が200ほどしか集まらないようだ。
騎士は12しかいない。
皆、フランシスやジャンの知り合いばかりである。
みんな気落ちしていたが、イングマルだけ「弓兵80も手に入った!」と無邪気に喜んでいる。
そんな様子を見て、鍛冶屋のフランクも参加すると言い出した。
元剣士の血が騒ぐのか? 彼の他の友達も参加するという。
イングマルは断ったが、女たちも戦うのに命の恩人のイングマルをそのままにしておけないという。
フランクには全員の剣と新たに短剣も新調してくれたのでもう充分尽くしてくれた、というのだがどうしても行くと聞かない。
イングマルは「剣の戦いの出番は、まずないよ。」と言うと「何でもいい、荷物持ちでもなんでもするから。」という。
「それじゃあ」とフランクには特別大型のクロスボーの装填を任せることにした。
射撃はキャロルが行う。
早速、組で訓練が始まった。
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