第136話 ローラの帰還
たっぷり遊んで休憩したあと次の目的地をローラの村に定めて移動を開始したが、途中大きな街によって先の戦いで損傷した部分を直し、新しいカゴをたくさん作りながら馬車内で何日でも過ごせるように新しく水樽を購入した。
戦いは単なる戦闘力だけでなく、防御力、機動力、兵站力、これらがバランスよくなければならないことを改めて認識した。
遠く離れた所に来て「敵は来ない」という思い込み、油断が今回の事態を招いた。
イングマルたちは絶えず敵の目があると意識するようになっていた。
そのため今後はいつも偵察隊を先行させることにした。
先行といってもほんの数百m先に進むだけである。
絶えず見える範囲である。
このわずかな距離と時間でも、事前に状況がわかるのとわからないのとでは天と地ほどの差がある。
皆で交代で3人一組になり偵察するようにした。
この時点ではイングマルたちは知らないことだったが、先の戦いはニコラス配下の人買い集団とは違い、ニコラスに雇われた地方の盗賊団の寄せ集めである。
ニコラスの部隊は分散せずひとまとまりになっているので、手の回らないところは雇った盗賊団に任せていたのである。
ローラの村に行くのに際して、1つ懸念があった。
人買いに娘を売ることで成り立つ村に近いのである。
この地方には、女を売ることで成り立つ村があと5つあることが分かっている。
その村の出身のものは幸いなかったのだが、ローラの村はそのうちのひとつの村のすぐ隣にある。
何らかの影響を受けている可能性があり、そう思うと気が気でない。
しかしこればかりはいくら考えても答えは出ない。
行ってみないことにはわからない。
平静を装いつつも不安であった。
もし村がローラを邪険に扱うようなら迷わず引き取り、みんなで創る新しい村にいけばいいだけのことなのでそう深刻になる事は無い。
しかしイングマルは内心ハラハラしながら村に到着しローラの家についた。
両親は大変驚き、泣いて喜んだがすぐ顔がくもってしまった。
この村は今、2つの派閥に分かれて対立するようになっていた。
やはりとなり村がここ数年急に豊かになり、はぶりがいいのを羨ましく思うようになった。
娘を売ることで成り立っていることがだんだん知られるようになると「自分たちも同じようにしよう」というものと、反対するものと対立するようになっていた。
が実際は自分の家族を自ら売るものはおらず、ローラが行方不明になったとき家族の悲しみは大変なものであった。
そんな姿を見ながら娘を売るなどとは表立っては言えないが、背に腹は代えられない。
どうしても食うために娘をこっそり売るものが現れ、やがて公然の秘密のようになっていった。
一旦その味をしめると、だんだんタガが外れたようになってきた。
村はそんな状況の真っただ中にあった。
両親はすぐ、みんなに村を出るように言った。
村の状態をみんな理解し、トラブルを避けるためにも皆は早く村を出ることにした。
ローラは両親に「一緒に行こう」といった。
しかし両親は首を振って「自分たちはこの村で生きてゆく」という。
例え村がおかしなことになろうとも、未来がなくとも、自分たちはこの村で生まれ育って今日までやってきた。
問題は自分たちでなんとかしなければならない。
しかし若いローラらは自分の人生を自分で作っていかなければならない。
「こんな村の事は忘れて、新しい土地で幸せになってほしい。」と言って、みんなにローラをゆだねた。
「幸い頼もしい仲間もいるようだし、私たちは安心してローラを送り出せる」という。
ローラが無事だったことだけで、十分満足だった両親。
ローラは両親にすがって泣いていた。
「無理にでも一緒に連れて行く」というローラだった。
両親は微笑んでローラの頭をなで、親の心配までできるようになったローラを愛しそうに見つめていた。
両親は我が子を助けてやれなかったことを後悔し、せめて足手まといにならないようにすることだけが罪滅ぼしと思っているようだった。
ローラを見つめて「あなたの人生が、旅立つ時がきたの。仲間と力を合わせて幸せに生きてね。」と言った。
ローラは泣きながら、うんうんとうなずいていた。
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