第124話  追憶の人









重装騎兵の乗っていた馬は輓馬で、他の馬より2周ぐらい大きい。



倒した彼らの馬を回収したが40頭もいる。



馬車を曳くのにもってこいなので、馬車用にした。



1つの馬車に2頭から4頭曳きにして、力強く機動性が良くなった。



頭数が増えた分、御するのは難しくなるけれど皆交代で御して直ぐに上手になった。






次の目的地をクリスタの村に定めたが、馬の頭数が多くなってきたので餌の確保が当面の課題となり、途中の村に寄って馬の餌を調達しようとした。




村に入ると一行の姿を見るなり無視して姿を隠してしまった。


声をかけても知らんぷりしている。




この村も排他的な村だった。





大きな家を訪ねて村長らしいものに「餌を売ってくれ」と頼んでみたが、「そんな余裕はない」と言う。


「早く出て行け」と言われた。





やむを得ず一行は村を出ようと村外れまできたが、いちばん外れの家の男がこちらを見ている。



男は30代の農民で丈夫そうな四肢の持ち無骨で愛想のない男だったが「馬の餌を探している」と言うと、えん麦20袋売ってくれた。



家に招かれてミルクを出してくれたので、ローズたちはご馳走になった。






イングマルは隅っこで何も口にせず、男を観察した。




男の話を聞くと、10年前に結婚を約束した女がいた、という。



以来、その約束を守っているという。






女は突然行方不明になった。



神隠しにあったとしか思えないくらい、突然のことだった。



両親も村人も誰も分からない。



生きているのか、死んでいるのかもわからない。







その後村人は男に結婚を進めたが、男は約束だからと結婚を拒んだ。



いつまでも結婚せず中年になってきた男をみんな気持ち悪がっていた。



「あいつは実は男好きなんだ、気をつけろ、近づくな。」とか言われた。




頑として村人の言うことを聞こうとしないので、だんだん村人とは疎遠になり今ではすっかり村八分のようになっていた。



何カ月も誰とも話さない日が日常となっていた。




寂しくないのか聞いてみたら、20代は寂しくて毎日泣いていたという。



20代も後半に入り30代に入るともう慣れてしまったという。





初めの数年はちょくちょく行方不明になった婚約者を探しに出かけていたこともあったが、全くアテもなく無駄だった。



村を出ることも考えたが女が戻ってきたとき会えなくなるから、と村人に疎まれてもここに居続けているのだという。




その話を聞いて、フリーダがたまらず外へ出た。




自分とは対照的な境遇に「人の世はなんでこんなにもうまくいかないのか?」と涙を流した。



男はこの先もこの生き方をしつづけるそうだ。


もう多分、一生再開できないことを心の奥底では感じている。








「結婚して、子を作り、新しい違う生き方を考えないのか?」


「あるいは女はもう他の男と一緒になっているかも知れなかったらどうするのか?」と聞いてみたが、「もし女が他の男と一緒になって幸せならそれで自分は満足だ。」という。



もう結婚も今更する気は無いという。







「自分の人生の運命は、こういうことだったんだ。」といった。





イングマルには少し不満だった。


悟っているかどうか知らないが、幸せになるための努力を放棄しているように見えたのだ。





結婚だけが幸せのカタチではない、という男を見ながらイングマルはニーナのことを思い出していた。




別れもきちんと言わなかったニーナ。





ニーナにはこの男のような、幸せを放棄したような生き方をしないで欲しい。



ローズたちのように戦ってでも、幸せを掴み取ってほしいとそう思っていた。







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