第123話  水遊び







自衛のためとはいえ、大勢の人買いを死なせたことが皆の心に重くのし掛かっているようだった。



みんなに元気がないのを気にしてイングマルは、こんな時はまた魚釣りでもして気をはらそう、と考えた。




からだを動かして遊ぶに限る。




山あいの小池にやってきて、魚釣りをしようとしたが全く釣れない。




イングマルは池に潜ってみたが、小さな魚がちらほらいるだけで釣れそうもない。



「ここはダメだな。」と言って水面から顔を出すと、みんなが驚いてこちらを見ている。



「何?」と言うと、みんな一斉に「あんた!泳げるのかい?!」と声をあげた。



この時代泳げる人はごくわずかで、まして女性が泳ぐことなどあり得ないことだった。







イングマルは急遽、水泳大会をすることにした。





みんな、水浴びぐらいはするが泳ぎとなるとみんな嫌がって水に入ろうとしない。



イングマルは無理強いしようとはせず、楽しそうにトミーや馬たちと一緒に泳いだ。



泳いでいる馬に乗ったり、背中にトミーを乗せたりしてとても楽しそうに遊んでいると皆おそるおそる水に入ってきた。




みんな服を着たままだったが、イングマルは水に入ってきたキャロルの手を引いてバタ足の練習をした。



バタ足ができるようになるとキャロルはトミーにつかまり、トミーはイングマルの背中に乗って気持ちよさそうに泳いで池の周りを回った。



キャロルが「キャーキャー」言って楽しそうにしているので、みんなも水に入って犬かきの練習を始めた。



イングマルは裸だったが、全く気にもせず泳いでいた。




イングマルやトミーの真似をして、みんな犬かきはすぐマスターした。




水への恐れ抵抗がなくなると平泳ぎを練習し、みんな思い思いに水泳を楽しんでいた。



浮きの代わりに放り込んでいた空のタルの上にイングマルは上がって、玉のりのように器用にタルの上でおかしなコサックダンスのような踊りをしていた。




負けず嫌いのローズがそれを見て、自分もタルの上に乗ろうとするがどうしてもうまくいかず、すぐ落水してしまう。




イングマルはローズをおちょくるように、タルの上で「や〜い、や〜い」と言って踊っている。




ローズがどうしてもうまくいかないので、イングマルはタルを水から上げて地面に横にして「そこでまず練習してみ」という。




砂地でタルは安定し、ローズは問題なく上に乗ることができた。




もうひとつのタルに乗ってイングマルが近づいてくると、ローズに木の棒を渡し、タルの上に乗ったまま打ち合いを始めた。




「タルから降りたら負けだよ。」というイングマルは、小躍りしながら上手にタルを転がしローズに近づいたり離れたりして、ローズを棒でつついてくる。






ローズはタルの上に乗っているだけで精一杯で、打ち合いどころではなかった。



なんどやっても上手くいかず、ローズはバランスを崩して蓋の開いているタルの中に落ちてしまった。



イングマルは素早くそのタルの上に飛び乗ると、タルの上で踊りながらころころころがした。



ローズは「あ”−−−−−ッ!!」という声をあげながら、転がり続けてやがて出てきた。



ローズは文字通り、目がぐるぐる回ってそのまま仰向けに倒れた。



イングマルは「ローズ!大丈夫か?!」と駆け寄ってローズをゆり動かし、「ワンッ!ツーッ!スリーッ!!」と地面を叩いてカウントを取った。



しかし「スリーッ!!」と言った瞬間、イングマルの頭を鷲掴みにされた。



爪が皮膚にめり込んだ。






「ヒッ!!」とイングマルは叫んだ後、あっという間にローズの腰ヒモで縛り上げられた。



さらにロープに縛られ、そのまま引きずられながら木に吊るされた。




その後、ローズは笑顔のままイングマルに向けて寸鉄を投げてきた。




寸鉄はえんぴつのような形をした鋼の武器である。




イングマルは器用に体をくねらせてうまく避けていたが、尻に刺さってしまった。



「かあちゃーん!かんべーん!!」と泣きわめく。






「誰がかあちゃんだ!!」


ローズは口から炎が出ているのかと思われるほど凄まじい怒りに満ちていた。




キャロルに止められて、やっとイングマルは解放された。




美しい薔薇には棘があるが、ローズの棘は飛んでくる。









イングマルはうつ伏せでトミーに血だらけの尻を舐めてもらいながら、次の行動を考え地図を眺めていた。




みんな思い思いに泳いだりして遊んでいる。




ローズはタルの上で剣の練習をしている。




何度も落ちているが、あきらめようとはしなかった。







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