第122話  ニコラス-エランという人物



 



この戦いで3つの人買い集団を殲滅できた。


戦いは大勝利なのだが、結局誰も最後まで喜ぶものはいなかった。




初めの頃は夢中だった戦いも、最近は冷静に落ち着いて行動できるようになり相手の顔の表情まで見ることができる。



驚き、怒り、恐怖、苦しみ、悲しみ。


1連の表情が全て目に入ってくる。




だんだん、いたたまれない気持ちになる。




唯一、例外といえばイングマルだろう。



彼はいつも冷静で変わりがない。




籠を編んでいる時と同じ表情で、人買いを殺害してゆく。



気のせいだろうか?、戦いの時の方が嬉しそうにしている気がする。





戦いに慣れてくると自分たちも戦いが平気になり、簡単に人を殺せるようになってしまうのか? 彼女たちは少し怖くなってしまった。



彼女たちはただ、もう早く終わってほしい、と願うばかりである。





砦の戦いの後、この戦闘の出来事を知らせるものがいればあるいはもう人買いたちは諦めたかもしれないが、他の人買いたちも元締めも知る由もなかった。



どんな戦いでも何人かは生き残りがいるものだが、今回100騎あまりも出動したのにその後何の連絡もないので元締めのニコラスは訳が分からなかった。










二コラス・エランという元締めは、生まれも育ちも大商家であり子供の頃から商人として生きてきた。




何不自由なく育ってきて、幼い頃から商売のイロハを仕込まれてきた。




いつの頃からか時々貸したお金が返せない者たちから人を担保に取るようになり、やがては人間そのものを商品として扱うようになりその専門となった。




人間の需要は絶えることがなかった。



若い女はいつでも需要があったし、近頃は若い男も需要が伸びてきている。





海運や海軍が本格的に整備されるようになってくると、船乗りの需要は絶えることがない。




この時代の船乗りは一度の遠距離航海で何十人も死んでしまうので、航海の度に船乗りを補充しなければならなかった。




誘拐同然に無理矢理港に連れてこられ、わけのわからないままに船に乗せられてしまうこともたびたびあった。




時代の需要に応じてニコラス・エランは効率よく人間を仕入れ、安定的に供給する。




この分野で、最も信頼される人物になっていった。



実行役の人買い集団からも信頼が厚かった。



彼らの馬や装備はすべてニコラスが用意し、当座の資金も出してくれた。



仕事をうまくこなせばたくさん褒美を出し、金も女も好きなだけもらうことができた。



貴族たちともつながりも深く、貧乏な貴族には資金を貸したり出資したりして彼らからの信頼も厚かった。




そのため彼がどんな悪事を働いても、もはや捕まる事はなかった。






1つだけ、彼の懸念は子供がいなかったことである。



若い頃から女に不自由した事は無いのだが、その事が仇となったのかわからないがどうしても子供ができなかった。



そのため、がむしゃらに仕事をしてきたが跡継ぎを育てることをしてこなかった。


もう晩年になってきて、自分の作ったこの事業を誰に任せるか?





優秀なものを今頃になって探して仕事を任せるようにしていたが、どうしてもうまくいかない。



ついつい、口も手も出して結局自分でしてしまう。




後継者を育てなかったことだけが、彼の後悔だった。







ジャン調査官にはアラン・コンペの友人と言っていたが、友人でもなんでもない。




アラン・コンペは金と女を提供すれば、喜んで館を隠れ蓑としてつかわせてくれるようになった。



しかしアランは男も女も嬲り殺して喜んでいるので、せっかく集めた商品をだめにしてしまう。



あんな変態は大きらいだった。







そんな時に突然起こった災いに、驚きと同時に若い頃感じた獰猛な闘争心が沸き起こるのを感じていた。



若い頃は多くのライバルたちや邪魔者を葬ってきた。




今回も他の者に任せていてはらちがあかず、自分で出てきて采配するようになった。




しかし若い頃から面倒を見てきて、実行役では最も頼りにしていたカスペル・コックがやられたという報告を聞いたときはさすがに動揺した。





彼を育成してから今日までは、戦いで敗れたことがなかったのだ。


しかも強力な武装集団と思っていたら、女たちしかいなかったという報告を受けたときはまったく訳がわからなかった。




なかなか接触できなかった謎の賊がテレシアの村にやってきたことがわかると、急いで人手を集め付近にいた部隊を全部集めて襲撃に向かわせた。




その後、連絡がない。




勝ったのか負けたのか?戦いがあったのか、なかったのか?何も分からずニコラスは途方に暮れてしまった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る