第121話 砦の戦い2
イングマルはバリケードを落として出入口を塞いだ後、崖の上に登ってから全体を見渡し大型のクロスボーを冷静に射てゆく。
重装甲の騎兵を集中して狙って行く。
すでに最初の一斉射撃で集団はパニックになっていた。
彼らは罠を仕掛けることがあってもまさか自分が罠にはめられるとは思っておらず、今までもそんな経験はなかった。
谷の上に土台を作りその上に据えられた大型のクロスボーの射手は、キャロルが行った。
装填は他のものが滑車を巻いて行った。
キャロルが操るクロスボウは名人芸と言っていい。
重なり合った重装騎兵2人同時に、1本の矢で射抜いた。
彼らが円陣を組んで防御に徹しようと固まれば格好の餌食となった。
イングマルは、キャロルの射撃技術を見ながら感心した。
イングマルにも戦闘中にそんなことはできなかった。
他の者もクロスボーの射撃技術の高さはイングマルと同レベルに達しており、キャロルは明らかに上回っていた。
高台ではローズが高台の櫓の上から大型のクロスボーを射ち続ける。
ローズ自身は高台から出て剣で戦いたいのだが、イングマルから「決して外に出ないように」と釘を指されていた。
「くッそー! 剣ならもっと早く倒せるのに!」とぶつくさ言いながらも確実に倒していった。
広場とは言え100騎もの騎馬が入るといっぱいで、しかもすでに死体やけが人が折り重なってもはや身動きができなくなってきていた。
なんとか逃げようと川に飛び込む者もいたが、流れが速くて深く重い甲冑のせいですぐに溺れてしまった。
みんな冷静に落ち着いて行動し、殆ど無駄な矢は撃たない。
谷の出入り口に逃げ戻ろうとする人が殺到したが、バリケードに群がる人々は次々矢を受け倒れてゆく。
倒れた人の山を登ってゆく人も次々撃たれてゆく。
イングマルは崖を降り、短剣と剣を使ってバリケードを登ってくる人を次々と襲い顔や首を刺して行く。
バリケードの上から転がり落ちて行く人で死体の山となり、谷の入り口は完全にふさがれてしまった。
100騎もの兵力が一堂に会すとすごく壮観だったが、みんなのクロスボーの射撃はベテランの域に達しており、最初の一斉射撃で3分の1近くが倒されてしまった。
新しいクロスボーは重装甲冑を難なく貫通し、重く機動性のないだけに格好の的になっていた。
軽装の物の方が走り回って的になりにくかったが、重装甲冑のものがあらかたやられてしまうと軽装のものにも矢が向い簡単にやられてしまった。
思った以上に静かな戦場だった。
馬の駆ける音、いななく音、怒号、鳴き叫ぶ声。
やがてそれらも聞こえなくなった。
戦闘は1時間ほどで終わった。
立って動いているものが馬だけになると、イングマルはみんなの無事を確かめ全員をそのまま待機させて一人一人生死を確認しにいく。
強力なクロスボーの矢は的確に急所に命中しており、ほぼ全員即死である。
わずかに意識のあるものに話を聞き出すと、やはり前回の戦いの生き残りと新たに2つの集団が合わさって攻撃し、今度こそ確実にイングマルたちを仕留めるはずだったという。
その話をしていたものも、出血多量でほどなく亡くなってしまった。
ほとんどが若くて、10代から20代のものだった。
戦闘終了後、はしゃいで喜ぶものはなく黙々と後片付けを始めた。
死体を裸にして持ち物調べ、装備を回収して広場の真ん中に大きな穴を掘って死体を埋めた。
馬と装備を回収し、馬車は武器と防具でいっぱいになってしまった。
片付けを終えるのに数日をかかったが、その後とりでを後にした。
人買いたちはよほど自信があったのか、隙がなかったのか、だれも降参するものがいなかった。
伝令者もバリケードの下で死んでいたので、この戦闘のことを知らせるものは誰もいなくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます