第117話 新しい対策2
イングマルは澄ました顔して「長剣の最も打撃力の出る場所は、柄から全長の8割ほどのところであります。」と解説し始めた。
「ここで剣を受けては、こちらがひとたまりもなくやられてしまう。」
「しかし、ばねと同じ素材である長剣は斬撃から発生する剣の固有振動があります。」
「この振動の最も大きくなる点を見つけ、長剣と同じ以上の重量をこの点に集中してぶち当てれば、相手の重量とこちらの重量と加速の勢いがあわさり、思った以上に簡単に折れます。」と言った。
子供が学者のようなことを言うのでなんともおかしな雰囲気になった。
しかし、ローズも皆もぽかんと口を開けて、理解していないようだった。
イングマルは荷台に行き、人買いから回収した長剣を取り出しローズに渡すと「思いっきり打ち込んできて。」という。
「中途半端でなく、殺す気でかかって来て。」という。
ローズは「よしきたッ!」と長剣をつかんで上段に構えた。
イングマルはいつもの剣を取り出し、ローズと対峙する。
上段に構えたローズは、みんなため息が出るほど美しい。
一方のイングマルはうんこ座りの姿勢で、肩に剣をかつぐように構えた。
美と醜の対比は、なんとも妙な絵柄であった。
ローズが「やーッ!」と叫んで豪快に打ち込んできた。
イングマルは少し懐ころに入り込みながら体を伸びあがらせ、そのまま長剣の鍔元15cmぐらいの所を勢いよく打ち上げた。
「パシンッ!」と言う音とともに長剣は鍔元で折れ、イングマルの背後の地面に突き刺さった。
「おー。」という歓声が皆の口から出た。
切り口をよく見ると刃先から5ミリほど切り込みが入り、後は茶碗の割れたような断面になっていた。
ローズは折れた剣の断面を眺めながら「コツは?」と聞いてくるが、イングマルは「いきなり山の頂上には行けないよ。」という。
それでも納得しないローズは「教えなさいよ!」と騒いで、イングマルにつかみかかってきた。
イングマルは少し考えて「そうだなぁ、やっぱり薪割りかなぁ〜。」という。
「薪割りなんか、だれでもできるじゃない?」と言うローズにイングマルは、人抱えもあるニレや樫の木の塊を持ってきて切り株の上にのせて斧を構えた。
「チョーッ!」と叫んで、体全体を使って斧を振り下ろすと「パコーンッ!」という音とともにニレの塊は半分になった。
下の切り株まで斧がめり込んでヒビが入った。
斧をローズに渡すと「これができないと、何もできないよ。」という。
ローズは同じようにして「こんなの簡単じゃない。」と言いながら上段から勢いよくニレの塊に斧を振り下ろすが、文字通り歯が立たず斧はニレの塊にはじかれてしまった。
何度やっても、ニレの木は斧を受け付けなかった。
ニレの木の根っこに近い部分はコブや節が複雑に絡んでいて、普段よく使う薪とは全然違っていた。
その日からローズはあれこれ姿勢を変えたり構えを変えたりしながらニレの木と格闘していた。
もちろん他の稽古も欠かさず行い、ローズは夜は疲れてすぐ大きないびきをかいて寝てしまった。
ローズの体は、日に日に筋力がついてきて精度もスピードも上がり、だんだんニレに斧の刃が入るようになってきた。
と同時にローズの剣の打撃力も上がってきて、以前は弾かれていた重装甲冑を貫通できるようになってきた。
やがて数回の打ち下ろしでニレの木を割れるようになると、イングマルは長い木剣を作りそれで稽古するようになった。
細めの木剣で剣を折る練習をし始め、折れるようになったらだんだん太くて重い木剣にしていった。
真剣と同じくらいの重さのものでもうまく折れるようになってきて、やがてニレや樫の木を一撃で割れるようになったローズは、イングマルでも何年もかかっていたことをわずかな間に習得してしまった。
太いカシの木剣をポキポキ折れるようになったローズは、いよいよ真剣で試すことになった。
万が一のため長剣は刃引きして、ローズは鎖と甲冑を着て挑むことになった。
ローズが使う剣はイングマルがいつも使う剣で、よく研いである。
イングマルには背丈が足りないので、台の上に乗ってローズと対峙する。
「よしッ!こいッ!」とローズは、うんこ座りになって、剣を肩でかつぐように構えた。
イングマルは「ちょーッ!」と叫んで、長剣を振り下ろした。
ローズは「でやーッ!」と、体を伸びあがらせながら長剣の鍔元を打ち上げた。
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