第113話  名剣







次の目的地をテレシアの村に定めて移動の途中、川で魚釣りをしてみんなで遊んでいたが、1人の騎士がこちらを見ているのに気がついた。



みんな警戒したが、特に敵意は無いようだ。




イングマルは騎士に向かって「商売の途中だが、少し休んでいるところです。」と答えておいた。



イングマルはしばらく騎士を観察していたが、人買いや人買いの元締めとは関係なさそうだ。





騎士は皆のそばに来ると自己紹介をはじめて「フランシス・ノイマン」と名乗った。



立派な身なりの騎士であった。




話を聞くと、主である伯爵家に代々伝わる剣を探しているという。



剣は主が、さる館の宴会に持って行ったまま火事で亡くなり、そのまま行方知れずとなっていた。



伯爵家は息子が後を継いだが、剣は由緒ある伯爵家の証明のようなものなので絶対になくしてはならない、という。



盗賊団が、持ち去った可能性があるそうだ。





イングマルはどんな剣か聞いてみたが、握りの部分に宝石が散りばめられた剣だそうで、イングマルには心当たりがあった。



アランの館で回収し、最も高く売れた剣である。



内心やばい、と思っていた。





イングマルは「探すアテはあるのか?」と聞いてみたが、盗賊団が持っているらしく、そいつらを探しまわっているそうだ。



「盗賊団が持っているとして、単独で盗賊団とどう渡り合うのか?」 と聞いたが



「何も恐れる事は無い。」



「おとなしく渡せば良、拒めば討ち果たすのみだ。」という。




相当腕に自信があるのか、単なる命知らずなのか、イングマルは「ふーん。」と言っていたが、この剣に関しては、すでに責任者とその家族が死罪となっている。



フランシスは直接関係がないのに、剣の探索の命を受け白羽の矢が立った。


死罪となった者たちのためにも、何が何でも剣を取り返さなければならない。



フランシスには、静かな物腰の中に鬼気迫るものがある。




イングマルは驚いて聞いていた。




「責任者は剣を持ち出した当主であるはずなのに、なぜ他のものが罪を被るのか?」と聞くと、「貴族とはそういうものだ。」とフランシスは顔色1つ変えずにいう。




「その物より、名誉や誇りといったものがそうさせるのだ。」という。




イングマルは「じゃ、あなたが剣を持って帰れなかったら?」と聞くと、



「その時は私が処刑される。そしてまた次のものが引き継ぐ。」と顔色一つ変えずに言う。




イングマルは思わず「馬鹿らしい。」と言ってしまった。




たかが剣のために、罪もないものを死なせるなど意味がわからない。



そんなことをしていることこそ、地位や名誉を傷つけるだけじゃないのか?





フランシスは「子供にはわからないことだ。」と顔色は相変わらず変化がない。




イングマルは呆れ半分、気の毒半分、少し迷ってから「いつ会えるかわからない盗賊団を探すよりも、町の道具屋や武器屋を探した方がいいんじゃないですか?」と言ってしまった。



もし道具屋にあったら、売った者たちのことを覚えられていて、自分たちが犯人であることがばれてしまう可能性がある。



しかし、気の毒に思ってつい助言してしまった。



が「それならもう調べた。」という。




トリアムの街で、売りに出されていたそうだ。



ところが武装集団がやってきて、その剣を売った者たちのことを聞いて回り、強引に奪い取るようにして持っていってしまった、という。



「それじゃ、その武装集団が今も・・・・」イングマルは恐る恐るきいた。




「そう、おそらく持っているだろう。」騎士は相変わらず無愛想な表情だった。




この武装集団は、おそらく人買い集団の1つだろう。







イングマルは、もうこれ以上深入りしないでおこう、と考えていた。


そのままやり過ごそうと思っていたら、ローズが「あんた、この後本当に1人でやり合う気かい?」と聞いてきた。



イングマルは余計なことを! と思ったが、既に手遅れ、フランシスはローズの声を聞いて「そなた、女か?」と言ってきた。



ローズもしまった、と思ったが「そうだよ、何か悪い?」といった。






騎士は「イヤ、隊商に女がいるのは珍しいと思ってな。」


「盗賊や人買い集団には注意されよ。」と少し心配そうな表情で言った。





ローズはちょっと意外なことを言われたので「ええ、わかってる。」とつぶやいた。








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