第112話  新しい備え2







ローズは乗馬は苦手であったが、イングマルに手取り足取り厳しく指導を受け、乗りこなすようになってきた。



同じ馬でも種類によって、また同じ品種でも育った環境でまるで違うものになる。


優秀な乗用馬はすごく乗り心地がいい。



それでも速足や駆け足で走らせると、上下に揺れてすぐしんどくなる。


それを吸収するため普通はあぶみを使い、あぶみの上に立つようにして足で衝撃を吸収するのだが、イングマルはあぶみを使わせない。


練習するときは裸馬に鞍だけ乗せ、あぶみは外してある。


本番ではあぶみを付けるが、あくまでも補助的なものである


あぶみに頼る癖を付けると万が一あぶみのベルトが切れた場合、バランスを崩して落馬してしまう。





戦闘中の落馬は即、死を意味する。


戦闘中でなくとも走っている途中の落馬自体、危険である。





「何があっても落馬してはならない。」と、いつもイングマルは口うるさく言う。




衝撃を吸収するために全身を使い、特に腰とお尻を八の字を描くように振り、馬の上下振動と合わせる。


タイミングが合うと馬がどんなに激しく駈けても、乗り手の頭は全然ゆれない。





イングマルはいつも頭と目線は一点をとらえたまま、微動だにしない。


まるで宙を浮いているように見える。



ローズは前を走るイングマルをよく観察しながら真似をして、だんだん上手にあぶみ無しの馬に乗れるようになってきた。



イングマルは理屈無し、説明ベタなのでとにかく手本を見せて皆に見て覚えてもらうしかない。


マスターしたものが、他のメンバーにコツを説明してゆく。


理屈でわかると皆も早く乗りこなせるようになっていった。









みんなの武器、メインアームはクロスボウだが、その他は短剣しかない。



しかしローズは「もっと大きな剣で戦えるようになりたい」と言い出し、剣での戦い方を教えてと言ってきた。




イングマルは、「剣の戦いは力の強い男とまともに打ち合っては勝ち目は無い。」と言っていたのだが、身につけておいても困るものでは無い。



イングマルはローズの体格に合う武器をあれこれ試してみることにした。







はじめに小槍を持たせてみたが、片手ではやはり扱いにくく結構邪魔になる。





長剣は大きくて重すぎるし、イングマルはこれまでの戦いの経験を生かして、長剣を薄く細く片手で扱えるまで軽くなるように削って、この時代にはまだあまり存在していなかった細身の剣にした。




手を伸ばして持った時に刃が水平になるように、グリップの部分を少し角度をつけた。



突きに特化した使い方をする。




非常に軽く、ひゅんひゅんと空を切る音がする。




しかも貫通力は甲冑も貫くほどであった。



ローズはこの新しい剣をすっかり気に入った。






イングマルはみんなに防具をつけるため、これまで倒した人買いや盗賊たちから回収した甲冑やくさりかたびらをリサイクルして、全員の防具を作っていた。




甲冑は防御力はあるが重くて動きが鈍るので、イングマルもほとんど使わない。


いつも鎖かたびらである。




ローズはイングマルの作った新しい鎖かたびらを着て、細いレイピアかエストックのような剣を構えると、誰もが憧れるような美しい騎士の姿となった。



イングマルが見ても、カッコイイと思えるほどだった。






しかし他のものは至近距離での格闘戦などイヤだったので、クロスボーで充分だと思っていた。



それ以上敵が近づいたらさっさと逃げる。





皆「騎士なんて、なるもんじゃなくて、見るものだよねー。」とローズを眺めながら言っていた。




イングマルはもっともっと様々な武器を作って自分やみんなに合う武器を探していたが、どれも一長一短で結局よく使うのは2本の短剣といつもの剣で落ち着いていた。




しかし特別にこだわりがあるわけではない。



武器など消耗品と思っているので、使えれば何でもいい。





2本の短剣は祖父が使っていたものであり、ずっと使い続けている。



愛着があるといえば唯一、この短剣くらいだろう。









全員の武器や防具がほぼ充実したが、ここしばらくは平穏な日が続いた。











トーべ、ブレンダ、ユーマ、ビオラ、シーラの5人が無事、自分の家に到着することができ、何事もなく一同ほっとしていた。



5人は自分の馬と武器防具も持って帰り、家ではみんな大喜びだった。








これが理想的だ、このように無事何事もなく旅が終わってくれれば幸いだ。


とイングマルはこの先も同じようなことが続くように祈っていた。





道順は全くのデタラメで、その日の気分魚釣りができるかどうかでイングマルは決めていた。




みんなで魚釣りをして、ひとしきり楽しんで次に移動する。




皆もすっかり魚釣りをマスターしていた。

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