第114話  名剣2







 以前出会った商人にひどい目にあったこともあるので、みんな警戒してこの騎士を見ている。



表情のほとんど変化しない無愛想な男だが、どういう男か理解するにはまだ時間が足りない。



みんな魚釣りを終えて食事の用意を始め、騎士と一緒に昼飯を食べることにした。



釣った魚を焼き、今日はそば粉のガレットだった。



野菜とチーズ、生ハムなどを挟んで岩塩を一振りして食べた。





薄く焼いたそば粉は表面はパリパリして、中はしっとりして、とてもうまかった。



騎士フランシスも、硬い表情が和らぎうまいうまいともりもり食べていた。


食べ終わる頃には少し笑顔がこぼれた。



みんなもほっとした。


悪い人ではなさそうだ。






片付けをしてフランシスは礼をいい、お互いに旅の無事を祈って別れようとした。





ちょうどそこへ、前方から40騎あまりの武装集団が現れた。




フランシスを無視して、イングマルたちの馬車をすっかり取り囲んだ。




武装集団のリーダーらしきものは、腰に金の装飾を散りばめた長剣を下げていた。





リーダーの男は「ワシは人買いのカスペル・コックというものだ。」


「お前らの中に、ローズ、キャロル、アデラ、ローラ、クリスタ、パメラ、その他大勢がいるな、変装しても無駄だぞ。!」と叫んだ。




ローズは馬車の中で急いで装備を整えながら「それがどうしたんだい!」と叫んだ。





「ほらみろ、やっぱり当たりだろ、川沿いに移動していると。思った通りだ。」と武装集団の他の者たちが話をしていた。





そこへ、騎士のフランシスが割って入り「我は騎士のフランシス・ノイマンというものだ。お前の持っている剣はトリアムの街で手に入れたものだな。」とリーダーに向かって声をあげた。




今度はリーダーが「それがどうしたんだ。」という。




「その剣は我が主君、ユーケダール伯爵家に伝わる剣だ。返してもらいたい。」とフランシスは言った。




「何いってんだ!テメェには用はねー!引っ込んでいろ!」とリーダーは叫んだ。




フランシスは「そうは行かぬ。主命である以上、何が何でももらいうける。」とキッパリと宣言した。





リーダーは「何なんだお前は。俺達が用があるのは、そこの女どもだ。」



「それに文句を言うなら相手が違うだろ、この剣を初めに持ち主から奪ったのは、そいつらだぞ!」とイングマルたちを指差して叫んだ。





「何!!どういうことだ。?!」フランシスは驚いてきいた。




「そいつらの仲間が、剣の持ち主や館のもの全員を殺してこの剣や金品を奪っていったのだ。」とリーダーは得意気に言う。




三つ巴の状態から、一気に形成は不利になってしまった。




フランシスは、イングマルたちを見て「本当か?」と聞いてきた。




イングマルは少しためらっていたが、ローズが「そうだよ!あの忌まわしい館の全員を殺したのは、私達だよ!」



「人買いの巣窟を壊して逃げてきたんだ!!」と叫んだ。







フランシスは「人買いの巣窟!?」と聞くと





「あんたは何もわかっていない!あの館は捕らえられた女たちに値段をつける奴隷市場だったのよ!!あんたの主君はその客の1人だったのよ!!」


「あの夜、みんな私たちに値段をつけながら、楽しそうに飲み食いしてたわよ!!」


ローズはくやし涙を流しながら、叫ぶように訴えた。



「あんたが命がけで守ろうとしている剣ってのは、そんな奴らの持ち物だ!そんなものに、何の名誉や誇りがあるんだ!!」



馬車にいた全員が涙をこぼした。



「私たちは家に帰るんだ!!みんなで幸せになるんだ!!」と叫び続ける。






フランシスは目を大きく見開いて驚いていたが、武装集団の方を向くと人買いのリーダーは「そういうことだ。その女どもは元々、俺達の仲間が仕入れた物だからな。逃げた商品を回収に来たんだ。」と説明した。



みんなが会話している間に、イングマルは完全武装になって装備を整えた。



皆既に盾の用意と、クロスボウの装填を終えいつでも攻撃できるようになっていた。





人買いのリーダーは「実行役が見当たらんな。女たちだけか? ちょうどいい、女ども全員回収できるわい。」


「それで、そっちの騎士さんはどっちにつくんだい?」


「回収を手伝ってくれるなら、この剣返してもいいぜ。」とめんどくさそうにきいた。







フランシスは、イングマルたちの方を見たまま剣を抜くと「加勢する。」と言うなり、人買いのリーダーに向かって突っ込んでいった。












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