第107話  教会の悪魔4







 イングマルは女たちのそばに行き、目の覚めているアデラのロープを切りナイフを渡すと、再び殺戮に走って行く。



アデラはこっそり、みんなのロープを切って回る。


目の覚めているものたちは皆、武器を探し出しまだ眠っているものを担いで身を隠した。










どのぐらい時間が経っただろう。




イングマルは動いている者ほとんど殺してしまい、生きている者も手足を切られて動けない。


死んだふりのものがいないか一人づつ確認してからイングマルは窓から外へ出て、外の鎖を外して1つのドアを開けた。



女たちを全員外へ出して馬車へ向かわせる。



数人、寝続けている者もいたが、みんなでかついで運んだ。



イングマルは教会に戻って皆の持ち物を回収し、生き残りの長老や教会関係者らしいものに質問した。




手足を斬られて動けない彼らはずっと命乞いをしていたが、そんなものは無視して人買いへの連絡手段と、責任者を聞いた。



さらに他にも同じことをしている村の名前も聞いた。






この地方の5つもの村が人買いと協力していて、この村と同じことをしている。


さらに8つの人買い集団がいるのだという。



それらを統括している人買いの総元締めの男が、ニコラス・エランという人物で、村長も1、2回会っただけだが、外見はりっぱな紳士だという。



住まいは王都にあり、それ以外のことは何も知らないという。





イングマルは必要な事を聞き出すと長老たちの首を斬ろうとしたが、再び命乞いと言い訳を始めた。






「ま、待ってくれ!あんたは若いから知らんだろうが、この村は数年前まで農業しか仕事がなかった。


どんなに働いても、毎年何十人もの餓死者や病死者を出していたんだ。


ある年なんかは、村の半分が死んでしまった。



でも、今のやり方をするようになってからは犠牲者は女だけ、せいぜい毎年十数人だけだ。


しかも、村は苦しい仕事をしなくても暮らしていけるようになったんだ。


わずかな犠牲で、多くのものが救われ、幸せになれる。


これこそ、これからの人間の効率の良い生き方、神の御心にかなうものだ。


教会でも、これをモデルケースにしようとしているところだ!。」と自信満々で解説した。





イングマルは「僕には難しいことはわかりません。


だが、獣でも子供の命は、命がけで守るものですよ。」と言った。







「だからだ!今まで死んでいた多くの命を救えるんだ!。」と長老は叫んだ。




「女を犠牲にしてですか? 僕には知らない人の命より、家族や友達の命が大事です。」とイングマルは冷静に言う。







「責任ある立場の者は、村全体、国や社会全体のことを考えねばならない。


個人レベルのことだけ考えているのは、無責任というものだ。


現実に、村の人口は前より20%も増えている。


これこそ、私たちの偉大な勝利と言わず、何と言うのか!。」


と、長老たちは説得出来るかもと期待し始めた。




しかしイングマルは気の毒そうに長老たちを眺めてつぶやいた。


「あなた方は、生きる努力の方向を間違ったんですね。」







子供に哀れんで見られて、長老は急に怒りが込み上げて叫んだ。


「私たちは間違っていない!!多くの命を救った!村を繁栄させた!果てしない労苦から人々を解放させた!他の誰ができた?!


他にやり方があるのなら教えてくれ!」







「生きる労苦がイヤなようですから、今解放して差し上げます。」


そういってイングマルは、3人の生き残りを祭壇のフックにひっかけ、手足を切り落とした。




そのままにして、教会に火をつけて回った。





泣きわめきながら炎に包まれる彼らを見守り、その後イングマルは村中の建物すべてに火をつけて回った。




すべての設備と建物、食料庫も燃やした。



数軒の家に老人がいたが、イングマルは構わず火を放った。



血まみれの裸のイングマルは、文字通りの悪魔の使いだった。






劫火に包まれる村は、狭い範囲での火災の熱で旋風が起こり、炎が竜のように夜空を駆け上っていった。






イングマルは井戸で体をざっと洗い流した後、その井戸も破壊した。






空が薄明るくなってきた頃、イングマルはみんなの馬車のもとに帰ってきて、すぐ馬車に乗って出発した。




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