第108話 教会の悪魔5
一行は早足で移動しつづけた。
結局ローズははじめから最後まで眠っていて、何が起こったのか分からずじまいだった。
ローズは目を覚ますと半分裸で、なぜか顔が痛い。
手鏡で顔を見ると、顔中墨だらけの落書きがされている。
馬車を御しているイングマルも裸だったので、ローズは「ちょっとアンタ!!これは何!!寝込みを襲うなんて!!しかもこんなメイクにして!!あんたはこーゆー趣味なの?!」と怒鳴った。
「ちょッ! なんでかッ?!」 イングマルはビックリした。
「あんただけはこーゆーことしないと思ってたのに!このエロガキがー!!」そう言うと、イングマル愛用のカシの木の棒でイングマルに殴りかかった。
みんなが慌ててローズを止めに入るわずかな間に、イングマルはしたたかに打ちのめされてしまった。
事情を知らされたローズは、イングマルに謝り続けた。
「ねー、もう勘弁してよ。」
顔中ボコボコになって、イングマルは知らんぷりしている。
「私の早とちりは前から知ってるでしょ?わるかったわよ、謝るから機嫌直してよ。」
イングマルはそれどころではなく、村人が言った一言を考えていた。
確かに「人買いに知らせた。」と言っていた。
早く逃げるか、撃退するところを探さないと追いつかれてしまう。
それに左腕の傷が思った以上に深手で、すごく痛しうまく動かない。
早駈けで移動し続け、日が高く昇ってきた頃、絶好の場所に来た。
狭くて深い谷の通りである。
イングマルは「ここだ!!」と言って馬車を止め、行く手を遮るようにして曲がり角に馬車を並べ、谷の入り口に数台の馬車を隠しておいた。
行く手を遮る馬車にローズが指揮する隊、谷の両側の頂に、ラウラの隊、もう1つの頂にフリーダの隊。
谷の入り口を塞ぐ馬車にイングマルの隊、と4つの隊に分けて配置した。
谷の崖の上に石を運び、立ち木を枝がついたままで倒しバリケードにした。
1時間ほどしてから、50騎あまりの騎馬集団がやってきた。
谷に入って曲がり道を曲がったところで馬車に行く手を遮られ、クロスボーの一斉射撃が始まった。
谷の両側からも矢と石が飛んできて、騎馬集団は一斉に後退しようとしたが、すでに背後も馬車で塞がれていて、クロスボーを撃ってくる。
男たちは走り回って逃げるが、4方からの攻撃に成す術がなく、あっという間に全員矢を受け、ほとんど倒されてしまった。
わずかに生き残りがいて降参したが、みんな致命傷で助りそうも無い。
「助けてくれ」、と懇願している者たちに話を聞くと、キャロルを襲った生き残りの人買いたちと、8つの人買い集団のうちの1つのグループだった。
イングマルは「お前さん達はもう助からない、最後に言う事はあるかい?」と聞いた。
「た・・助けてくれ・・・こんなの・・何かの間違いだ・・・・この俺が・・・こんなとこで死ぬはずないんだ・・・・。」
「この後、褒美に女をもらって・・・・家を建てて・・・・ほんで・・ほんで・・・・・。」そう言いながら死んでしまった。
皆まだ若かった。
全員の持ち物を調べ上げ、使えそうな装備や馬を回収し、死体を谷の窪地に埋めた。
周辺の後片付けをし、その後一行はその場を後にした。
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