第87話 道中にて2
イングマルは男たちに向かって「怪しい者じゃありません。隊商の使いで中継地に行くところなんです。」と言った。
おとこたちは「中継地?このあたりにそんなもんはねぇ。まぁあったら、俺達のものだがだな。」とニタニタ笑っていた。
「そう。何かの間違いだったみたいだ。もういくよ。」とイングマルは行こうとした。
「この間抜けが!何言ってやがる!。死にたくなければ、身につけているもの全部置いていけ!馬も全部だ!。」盗賊たちは一斉に叫んで、剣を抜いた。
「それどころじゃないんです。すぐに行かないと!」とイングマルは困った顔をして言った。
「しったことか!早くしろ。俺達もすぐ行かないといけねーんだ。」
「それなら僕に構わず・・・・」
「うるせー!死にたいのかー!」と言った瞬間、イングマルはクロスボウを持った男にナイフを投げた。
顔面に突き刺さり、もう1人に飛びかかって短剣で首を刺した。
最後の1人はあっけにとられていたが、ようやく剣で斬ろうとしたがその手首をイングマルに斬られてしまった。
骨まで達する深手を負い、手首を押さえてうずくまる男にイングマルは「あんたらこの前、隊商を襲ってた奴らだな。他のものはどうしたんだ。」と聞いた。
「へへへっ。人と装備を集めて、今頃リベンジだ。」
油汗を流しながら、苦悶の表情で答えた。
イングマルは「しまった。」とつぶやいて、盗賊たちの武器と馬を持って駆け出した。
ローズたちはいつまでたってもイングマルが戻ってこないので、不安になってきた。
さらに男たちの態度に、我慢ならなくなってきた。
昔の自分ならおとなしく従っていたかもしれないが、今は違う。
とうとう我慢できなくなった。
「ちょっと!あんたらいい加減にしなさいよ!あたしらはあんたらの所有物じゃないのよ!アンタ達とはもう解散よ。!」とローズは叫んだ。
「へっへっへっ。そんなことできるわけねー。女のくせに。女はおとなしく、おれたちに従っていればいいんだ。」醜い笑い顔で男たちは答えた。
「何言ってんの!相棒が戻ってきたら、あんたらなんかおしまいよ!。」ローズが食い下がる。
「へっへっへっ。あのガキなら、もう戻って来ねえよ。」
「どういうこと?」
「隊商の中継地なんかねーのさ。あいつが行ったのは、この辺じゃ有名な盗賊団のアジトだ。今頃良くて丸裸。まあ命はねぇだろうなぁ。」
「なんだって!」女たちは一斉に叫んだ。
「おめーらはもう俺たちに従うしかねーんだよ。! 今晩から順番に俺達の相手をしてもらうぜ!。ぐへへへ。」
男たちは、ヨダレをたらしながら、獣の目になっていた。
ローズは思わず短剣に手をかけようとしたが、すぐに40騎ほどの盗賊団に囲まれてしまった。
男たちはさっきの勢は急になくなり、怯え始めた。
そして盗賊団のリーダーらしきものに、すぐ命乞いを始めた。
「ここにいる者は全員女です。みんな差し上げますので、どうか我々の命だけはお助けを。」と、もみ手をしながらペコペコしはじめた。
全員女、という言葉に盗賊団は色めき立ち、異様に興奮しだした。
盗賊たちは商人の事はどうでもよくなり、女の値踏みを始めた。
その隙に男たちはこそこそと、その場を逃げ出した。
多数の盗賊団に囲まれてしまい、女たちは半分諦めてしまった。
しかし向こうの丘の上、150mほどのところから馬に乗ってイングマルがやってきた。
両手で輪を作って、合図を送っている。
円陣を組めと言うことだ。
イングマル父さんは、決してあきらめない。
女たちはそれを見て、馬車を動かす。
盗賊団たちがそれにつられて動き出そうとした途端、背後から矢が飛んできて次々と倒されてゆく。
盗賊たち全員が背後を見た。
盗賊団の背後100mぐらいから単騎クロスボウを撃って来る。
単騎とは言え狙いは正確でしかも速い。
盗賊のリーダーはどうしてこんなに早くクロスボウを射てるのか知りたくて、イングマルの様子をじっと見ていた。
イングマルは馬に乗ったままで器用に装填してすぐ狙いをつけた、と思ったらたちまち矢が飛んできて、リーダーはすんでの所で首をかしげてかわしたが耳を射ち抜かれてしまった。
ほとんどちぎれた耳を押さえ、あのクロスボウ使いは相当な使い手であることが身を以ってわかると、みんなに警戒させた。
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