第85話 休息
散々泣いて泣き疲れてみんな居眠りを始めたので、やむを得ず森に入って休憩した。
一眠りした後、みんな泣いてすっきりしたのか?ローズは特に晴れ晴れしていた。
イングマルは「ローズが良ければ、アンナの村に戻って身を寄せてもいいんじゃないかな。多分みんな歓迎してくれると思うよ。」と言った。
ローズは首を振って「いいえ、私のためにこれ以上時間をとってはいけない。私は最後でいい。それに最後までみんなの無事を見届けたいの。」と言った。
それを聞いて、みんな不安が募った。
口には出さないが「自分も同じだったらどうしよう?家族に売られていたら、帰る場所がなかったら。」
どんなに離れていても繋がっている家族がある、家がある、それだけで生きる勇気が出てくるものだがそれがなかったら?自分だけが勝手に思ってていただけとしたら?
イングマルもそのことをみんな考えているであろう事はすぐにわかった。
このことはいくら考えても仕方のないことなのだが、みんなどうしても頭から離れないようだ。
イングマルは森の中の池のほとりで休憩し「みんなで魚釣りをしよう。」と言い出した。
みんなそんな気分じゃないし「まためんどくさいことを言い出して」と思ったがイングマルは鼻歌交じりに細く丈夫な木を削って釣り竿を作っている。
池と言うよりも山から流れこんでくる川の大きな淵のようなところで、魚影が濃い。
「誰がいちばんたくさん釣れるか競争だよ。いちばんの人にはこのトミーをモデルにした木彫を差し上げます。」とニコニコと嬉しそうに言う。
すでに金貨数百枚もらっているので別に何もいらないし、木彫などどうでもいいのだがみんな気を使って喜んでみせた。
森の土を掘って大きなミミズを掘り出し、乗り気じゃなかった女性たちもなんだかんだと言いながらもキャーキャー言ってミミズを掴んで針に挿している。
釣り糸を垂らすとすぐに大きなマスが釣れた。
入れ食い状態で面白い様に釣れる。
みんな大喜びで釣りに夢中になった。
うまく釣れないものはイングマルがポイントや釣り方を教えてゆく。
みんなは時間の経つのを忘れて、釣りまくっていた。
釣った魚はイングマルが手早く捌き、半分は塩焼きに半分は燻製にした。
濃い塩水に一晩つけてその後流水で塩抜きし、半日乾かしてさらに半日燻煙をかける。
結局、誰が1番多く釣ったかはどうでもよくなって、その日は塩焼きをみんなで食べ、遅くまでバカな話をして騒いでいた。
翌日は燻製の下ごしらえの合間に新しい戦闘訓練をした。
特にローズは「もっと強くなりたい」とイングマルに「いろんな技を教えて」と言ってきた。
今までは防衛に徹する型がほとんどだったので投げナイフや目潰しの作り方、武器を持っていない場合の格闘戦の技も特別にローズに教えていた。
クロスボウ作りの時に出たクルミ材の廃材を細かくチップにしていぶし、箱を作ってスモーカーにした。
半日ほどいぶしていると、美しい飴色になってきた。
少し置いて冷ましている間、イングマルはローズにベルトを使って石を投げる方法を教えていた。
その後、ローズが先に戻りイングマルが片付けをして戻ってきたら、あんなにたくさんあったマスの燻製はほとんど残っていなかった。
最後の1匹はトミーに食べられてしまった。
よっぽど、うまかったようだ。
「僕の分は?」とイングマルは皆に聞いた。
みんな顔を見合わせ、もう無い事を今知った。
ローズが「あら、もう無い、ごめんなさい、全部食べちゃった。おほほほほ。」
「僕のお魚は!」納得できないイングマル。
「だからもうないんだって。あんまり美味しいから、みんな夢中で食べちゃった。」
「ぐぬぬぬぬっ」とイングマルははぎしりすると、ローズの脂肪の付き始めてきた下っ腹のお肉を思いっきり掴んでひねり上げた。
ローズは「ぎゃっ!」という声を上げて「何しやがる!このがきーッ!」と言ってイングマルを思いっきりぶん殴った。
「ローズのおたんこなすー!行き遅れー!。」と叫んでイングマルは走っていってしまった。
イングマルは川の縁でいじけていると、トミーが魚のヘタをくわえてやって来た。
イングマルの前に来てヘタを落とした。
イングマルはトミーを抱きかかえ「お前だけだー!僕を分かってくれるのはー!」と泣きべそかいていた。
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