第53話 大隊商
もともとは優秀な用心棒なので新米商人の彼らは商売のやり方に慣れてくると、数をこなそうとイングマルより倍以上の数をさばいていた。
イングマルはのんびりしているので旅の道中、街道に咲く花や鳥たちを眺めてみとれていたりしらない土地の川などで魚釣りをしてみたり、商売相手に舐められて馬車を空身で帰ってくることもある。
そんなイングマルを横目で見ながら ”どんなもんだ” と言わんばかりに元用心棒たちは土ぼこりを巻き上げながら馬車を走らせてゆく。
かなりの数の商品をさばいて元用心棒たちはもうすっかり一人前気分だ。
仕事が終わった後は酒場に直行し、気に入った店を見つけて美人比べをして盛り上がっていた。
「凄い美人を見つけた!」と言ってイングマルを誘うが、いつも馬車の修理が忙しいと断っている。
そんなある日、叔父の店のほか数件の商会が集団で隊商を組んでスロトニアとの国境近くの町へ行くことになった。
この地域は特に治安が悪く、ここ数ヶ月まともに物資が出入りできていない。
伝令もよく襲われるので町がどういう状況なのかわからず、連絡さえままならない状態で専ら伝書鳩によって連絡が保たれている状態である。
4人の新米ももうすっかり板についてきたので、叔父の商売仲間らとこの隊商に参加することとなった。
荷馬車が30台。馬車10台につき12人の護衛と商人と手伝いの者、予備人員を合わせて合計120名あまりの大隊商となった。
イングマルはもちろん、こんな大キャラバンは初めてであり参加することになった。
当初、叔父に留守番するよう言われたが珍しくイングマルが駄々をこねたのでやむを得ず連れて行くことになった。
4人の新米も一緒である。
道中は何事もなければ問題のない道であるがこの地域の途中、特に必ずと言っていいほど盗賊がでる場所があるので、なるべく強力な護衛をつけて安全に通れるかが鍵となる。
イングマルは隊商が長く細くなるので、側面から襲われるとやっかいと思っていた。
「40人の護衛では少ないのではないか?」と思っていたので、自分も護衛役を頼んでみたが「お前は馬車」と言われた。
隊商は何週間も前から計画されていたので、イングマルも準備を早くからしていた。
愛用の武器や防具の手入れはもちろんのこと、今回は新しく弓も作ってみた。
クロスボーと同じ矢を使える小型の弓で、イングマルが自分に合わせて作った。
「何事もなければいい」と言いながら、イングマルは心の中でわくわくしていた。
護衛つきの大キャラバンを襲うとなると、負けず劣らず盗賊の数も大人数となることは間違いない。
大軍を相手に戦えるかもという興奮を隠し切れない。
新米ら4人も同じく興奮していた。
商人として働く毎日に、どこか物足りなさを感じていた。
元用心棒の血が騒いでいる。
彼らだけでなく、ほとんどの者が経験したことのない大キャラバンに興奮していた。
普段と変わらず冷静なのは、叔父くらいなものだ。
いよいよ出発の日。
町の代表らと伯父達商会のリーダーたちが話をし、町の旗を馬車の先頭に掲げ、それぞれの馬車に商会の家紋入りの旗を掲げて出発した。
町中の人が集まり、さわいで隊列を見送った。
叔父のスタインベック商会は隊列の中央付近、 11台の馬車である。
イングマルはその中ほどにいた。
隊列は1列で長い馬車列に旗をたなびかせて移動する様は圧巻であった。
戦争ともなれば別に何ということもない、ありふれた隊列だがイングマルや戦争を知らない若い人にとってはすごく興奮した。
馬車の両脇2、3台置きに、護衛の騎兵が並走している。
馬車には物資が満載され馬車の中では興奮を隠し切れず、”男の本懐これにあり”という歌を歌っている者もいる。
荷を満載し、足の遅いものに合わせているので隊列はたびたび止まったりしてゆっくりとした移動だった。
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