第52話 仲間2
子供にしか見えないイングマルが単独で商人としてちゃんと生き、戦闘でも一流の腕を持っている。
金のことよりも人として、男として、生きる価値をイングマルに見たのかもしれない。
10歳以上年の離れた彼らであったが、そんな思いを持っていた。
彼らがこれまで持っていた価値観は全て捨て去り、クリアな状態である。
イングマルのように生きていけるのであればなんでも受け入れて、学んでいこうという感じであった。
彼ら自身ベテラン商人と組んでコツやノウハウをつかむようになると、元々は強面の用心棒であり誰にでも物怖じすることなく堂々と交渉したり渡り合える。
その点、イングマルは不利である。
いつも相手に舐められる。
子供相手に一人前と見てもらえないことが多い。
イングマルがすごんでみたところで一文にもならず、軽くあしらわれてしまいときには商売そのものが成り立たないことがある。
しかしイングマル自身はそれほど気にしていない。
その方が相手の本心がよくわかるからだ。
イングマルはいつもどんな時でもどんなものでも、”本物が見たい” と思っていたのでそういう人たちは本物じゃない、と割り切っていた。
そして世の中に一流の本物と言えるものがいかに少ないか、身をもって感じていた。
商売をする上で自分自身が信用を得ることが重要だが同じくらい信用ある人を見つけることも重要である。
イングマルにとっては祖父と叔父が理想の人だったのでいつも彼らのような人を探している。
どちらも、普段はあまりしゃべらない人である。
祖父が話していたことなどほとんど覚えていないし、叔父にしても普段は「フロ、メシ、ネル、」ぐらいしか話を聞いたことがない。
イングマルはそんなもんだろうと思っているので弓矢のように、雨あられのように話をしてくるものは異世界から来た人のように思えてしまうのだ。
だから喋りの達者なものは信用しなかった。
しかしまったく話もせず、というのは商人としては成立しない。
必要最小限の話をし、誰にも物怖じすることなく話せること。
また相手の言う言葉をよく聞く耳を持つことも、話すのと同じくらい重要である。
両者をバランスよく身につけていくことがイングマルの今後の課題である。
人生経験の少ないイングマルにはまだまだうまくない。
上手に話ができる人を見ると彼はいつも感心する。
もう一つイングマルの苦手なものに女性があった。
年若いイングマルに同情し、あれこれ言ってくる女性は本心が見えないので、いつも困ってしまう。
商売でも同情してくるので良い返事が聞けるのかと思っていたら、結局断られたり安く買い叩かれそうになったりといつも混乱する。
男と違い、顔の下の本心が見えにくい。
イングマルは女性と話すときはいつも緊張し、山賊と対峙するときと同じくらい警戒する。
相手が武器を持っていないので余計に厄介だ。
剣より鋭い言葉の矢が、どんな防具も無効にしてしまう。
どんな盗賊や山賊にも恐れないイングマルだが、女性だけは対抗手段がないのであまり関わらないようにしている。
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