第54話 大隊商2
夜は宿場町に入るが、全員は収容しきれないのでテントを張った。
宿場内に荷馬車を置き、入り口付近にテントを張って盗賊に警戒した。
数日間は何事もなく過ぎ、最も難所と言われた場所にさしかかった。
森に近くすり鉢のような地形でその真ん中を狭い通路が通っている。
周りの視界が悪く、盗賊が襲撃するにはもってこいの地形だった。
緊張は最高潮だったがなんともなかった。
みんな襲撃があるとすれば夜だと思い込んでいたので、昼はつかれて気が緩んで緊張を失い、居眠りする者まであらわれた。
イングマルも最も襲撃しやすい場所は何事もなかったので、もう襲撃はないのかと思っていた。
多数の護衛を従えているので、もうあきらめたのか。
最終日、みんな半分到着したような気分だった。
街道の両側は開けた草原で遠くまで見渡せる。
何かが近づけばすぐにわかる。
大キャラバンは天気の良い街道筋を、何事もなく過ぎてゆく。
と思っていたが、どうも体がおかしい。
五感が警報を出し、手が汗ばんで心臓が高まる。
風が吹いてきて、殺意と敵意に満ちたにおいがしてきた。
お尻がむずむずして、その場にいたくない感覚。
一刻も早くここから離れたい感覚。
天気はよく、地面はほどよく乾き絶好の旅行日和だ。
みんながあくび、うたた寝している。
イングマルは馬車の荷台の屋根に上り、右手の方をじっと見てみる。
500mほど先のなだらかな斜面の上が、なんだか不自然に盛り上がっている。
イングマルは「敵襲!」と叫び、手筈どおり馬車に備えたドラを鳴らした。
「みんな何事か?」と驚いて、近くにいた護衛の騎士は近づいてきて何事か聞いてきた。
イングマルは敵を示す赤い旗を右方向にさしめしす。
護衛の騎士は何も見えないが、右の斜面を偵察に向かった。
300mほど行ったところで、矢で撃たれた。
落馬はせず、こちらに向かって走ってきた。
「敵襲!、敵襲!」と叫んでいる。
遠くの斜面の緑の絨毯はカモフラージュで、一斉にそれらがなくなると馬がかけて近づいてくる。
横1列になり、ざっと見ても150はいる。
やがてそれらがひとかたまりになって、馬車列の中央部めがけて突進してきた。
護衛の騎士たちは全員、隊列の右側に整列していたが敵の数の多さにひるんでいる。
馬車は散り散りにかけて逃げようとした。
イングマルはそれらを制止して円陣を組むように指示した。
「円陣!円陣!」と叫んでそこら中を走り回り、叔父の隊商の馬車を集める。
なんとか▲の形に馬車を集め、外縁部に弓やクロスボウを配置させた。
ひるんでいた護衛の騎士たちも馬車の前に並び、盾と槍を構えるがイングマルは馬車の外側に並んでいた騎士に「まだ距離があるので、荷台の後に入るように」と指示した。
イングマルは隊商に手伝いで来ていて馬車の下でふるえていた非戦闘員の数名を捕まえて、クロスボウの装填をさせるため助手としてそばに居させた。
襲撃者が距離100mほどになった頃からイングマルは、クロスボウを射て行く。
射たクロスボウを助手に渡し、装填済みのクロスボウを受け取る。
イングマルはターゲットを見据えたまま、腕だけ伸ばしクロスボウを受け取り次々と射て行く。
受け取った助手たちは必死でクロスボウの滑車を回して装填し、イングマルに渡す。
銃や大砲のない時代のため、戦場は意外と静かである。
馬の駆ける音と、叫び声ぐらい。
イングマルは冷静に、正確に、盗賊を射ていく。
1本も外さない。
相手も弓を撃ってくるが荷台がバリケードとなっているので全く犠牲は出てない。
スタインベック商会の馬車がうまく中央で敵を止めているのを見て、他の隊も彼らの周りに集まってきて▲▲▲の陣形ができた。
同じように弓矢、クロスボウを撃ち続ける。
相手も撃ってくるがバリケードがあるこちら側が有利になってきた。
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