第48話  吟遊詩人



 




鉱山から無事戻りしばらくして商売の途上、風変わりな帽子をかぶり楽器を持った旅人に出会った。




背の高い男は吟遊詩人であちこち歌い歩いているのだという。





馬車に乗せてくれたお礼のつもりで楽器を弾いている。






イングマルは吟遊詩人も楽器を見るのも初めてだった。










ヨッシー・ランドという名前の詩人は町を移動しながら貴族の館を主に周り歌を歌うという。



言われれば何処へでも行くのだが最近は貴族の羽振りが悪く、あまりお金にはならないとぼやいていた。



しかしいくら身入りが悪くとも、他には何もできないのでこの仕事は続けるという。




町には家があり、奥さんと子供がいるそうだ。




旅は辛いこともあるが家族のもとに帰る喜びもまた大きい。







馬車に揺られながら彼の奏でる音楽は明るく楽しい気分になるものだ。



イングマルが動物達と一緒にいるときの感じとは少し違うけれど似ているものだ。




心が穏やかな気分になる。




イングマルは音楽のことはよくわからなかったが「商売の旅の道中こんな音楽が演奏できたらいいだろうなぁ」と思った。




音楽とともに馬車に揺られ、街道の分かれ道まで来て別れた。




この先の小さな町に家があり、久しぶりに帰るとのことだった。





イングマルの旅の安全と商売の成功を祈る歌を歌いながら見送られ、馬車は去っていく。





2人はいつまでも手を振って、やがて見えなくなった。














イングマルは目的地の街に到着し、注文の品を届けその後この街の産品を買い求めた。




詩人が持っていたのとよく似た楽器が飾ってある店があり、覗いてみた。




店の主人は絶対買いそうもない少年が入ってきたので面倒くさそうにしていた。



イングマルはいくらするのか聞いてみたが金貨5枚といわれ驚いた。




「音楽は高いもんだなぁ」と感心した。


と同時にこんなにお金がかかるものは無理かもと思ったりもした。




いかにも繊細ではかなげで、ちょっとでも乱暴に扱えば簡単に壊れてしまう。




普段、剣や斧、ハンマーとかばっかり握っているイングマルの手ではすぐに壊してしまうのは目に見えていた。




店の主人が怪訝な顔で睨み続けるのでイングマルは早々に店を出て、残りの用事を済ませ帰路についた。









詩人と別れた街道の分かれ道まで来たところで日が暮れてしまい、野宿することにした。




普段は危険なので単独の商人は宿に泊まるのだが、イングマルはいつも野宿する。




道から外れた藪に目立たないよう馬車を隠しておく。






夜中はほとんど眠らず、数分おきに起きてあたりを警戒する。



イングマルにとっては身に付いた習慣となっているので、別に苦にはならない。






夜中の方が五感がよく働くので、気配を感じやすくなる。








ウトウトしていた時に、気配を感じて目が覚めた。



気配というより、賑やかな音がしてきたのである。






笑い声と楽器の音である。



吟遊詩人が弾いていたのと同じ楽器の音だが乱暴なボロンボロンとした音を出しながら、がやがやと3人の男が馬に乗ってやってきた。








街道の別れで休憩しているようで、イングマルがこっそり近づいて様子を見る。


どうも盗賊のようだ。





しかも、持っていた楽器は、明らかに先刻の吟遊詩人のものだ。






飾り縁のついたあの楽器を見間違うはずがない。




「まさか?」と思いもっと近づいて聞き耳を立てた。











あの吟遊詩人はどうやら街に入る前に盗賊に会い、金品と楽器を奪われたようだ。








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