第47話 鉱山2
領主の館に向かう道中、あっちこっちから鉱石が集まって来ていた。
水車小屋の近くでは水車の動力を使って精錬作業が行われ、粉砕機やふいごが動いている。
煙がいくつも上り農村らしからぬ、工業地帯のような暗い雰囲気が漂ってきた。
程なく館に到着しすぐ面会を申し込むと許可が出たので、さっそく館内に入りあいさつをした。
領主のメルケル・エストバリは用心棒が怪我をして帰ってきたことをイングマルに問いただしてきた。
がイングマルはそれにはまったく構わず、村で起こった出来事と農民の生活保障を訴えた。
「せめて代替農地を彼らに探し与えることをしてほしい」と言った。
めんどくさそうに聞いていた領主は「フンッ」と鼻を鳴らす。
領主は子供の言い分など初めから聞く耳を持っていなかったのだが、イングマルが「農民を虐げれば必ず我が身に降りかかる。 ヴァーベルト公爵のように。」というとギクリとした。
さらに「この国ではついこの間、農民救出のための大義名分を掲げて戦争をしたばかり。同じ国内で農民を虐げている領主がいれば、国民はどう思うでしょうか。」といった。
領主は急に焦り始めた。どうやらそういう計算はできるようである。
イングマルはさらに続ける。
「それにあの鉱石は採取するのに歩留まりが悪く、すぐ掘りつくしてしまいます。
後には荒れた土地が残るだけ。
農民を追い出して恨みを買ってはその後の荒れ地を耕してくれる人がいなくなりますよ。
ここは目さきの利益だけにこだわらず将来の投資のつもりで農民に恩を売っておいても、損にはならないと思いますがいかがでしょう。」といった。
計算高い領主はすぐ納得したようで早速、側近を呼んで代替地の候補を探させた。
半日ほど待った後、代替地の候補を用意し案内人が案内してくれることになった。
イングマルは早速村に戻り、この案を村人に知らせた。
とりあえず土に詳しい男と村長が一緒に代替地を見に行くことになり、イングマルと一緒に案内人と向かった。
少し面積は小さくなるし斜面もあるけれど、とんでもなく酷いという事は無い。
村長も納得して村ごとここに引っ越すことになった。
すぐに追い出された人も呼びに行って帰ってきてもらい、イングマルと村長は領主の館に向い礼をのべた。
領主は「前々から考えていたことだ。」と偉そうに言ったが礼を言われて悪い気分ではないようだ。
案外物分りのいい領主でイングマルもほっとした。
すぐ村中を挙げて引っ越し作業に大賑わいだった。
解体できるものは小屋でも家でもなんでもばらして運び始め、イングマルの馬車にも山のような荷を積んで引っ越しを手伝った。
何日もかかって何十往復もして、やっと引っ越し作業が終わった。
まだ住むところがないのでしばらくはテント生活だが村人たちは前のように悲しんではいなかった。
皆、希望を持って明るく元気に作業をしていた。
イングマルはそれらを見守った後「もう大丈夫」と思うといつの間にか皆の前から姿を消していた。
帰り道、馬上の男たちに取り囲まれた。
領主のところにいた用心棒だった。
男たちは「お前のおかげで俺たちはお払い箱だ!このまま帰すわけにはいかねー!」と口々に言う。
どうやら領主のところをクビになったようだ。
イングマルは「僕みたいな子供に打ちのめされるようじゃ、用心棒に向いてませんよ。
仕事を変えたほうがいいのでは。」といった。
イングマルは正直に言ったつもりだが男たちは思いっきりコケにされ馬鹿にされたと思ったのか?激昂して怒りだした。
「このガキ!もう許さねえ!」と剣を構えた。
「怒らないでくださいよ。農民たちも前よりも小さいけれど新しい土地に希望を持っていきましたよ。
みなさんも新しい仕事を希望を持って・・・・。」
「やかましい!」剣を振り下ろしてきた。
「オラー、バンッ!、死ねやー、バシッ!、くそがー、べシッ!、このガキー、ボコッ!」。
1人ずつイングマルの木の棒が顔面や腕に命中し、彼らは武器を落としてうずくまってしまった。
腹を打たれたれた男はゲーゲーはいてる。
「だから言ったじゃないですか、向いていないって。」とイングマルは何事もなかったように言う。
「商人として生きていくつもりがあるなら、いい人紹介しますよ。」といってそのまま行ってしまった。
男たちは立つこともできず見送った。
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