第27話  対策







前回撃退された6人の追手は深手を負いつつもなんとか町にたどりつけたが馬を失い武器を失い哀れな姿だった。




皆に取り囲まれて様子を聞かれたが「イングマル 1人にやられた」とは恥ずかしくて言い出せず「イングマルを追っている途中、山で山賊に襲われた」と嘘を言った。




すぐに対策が話し合われ手練れの6人が使えないので新しく街で募集された人たちばかりが編成された。




山賊にも備えねばならず 今回は50人で行くことになった。




イングマルらしい少年が馬に乗って南に向かってていることがわかるとすぐに出発した。





みんな口だけ大将の見本のような連中で「子供が相手に何の問題もない」と思っていたのだろう。




「山賊もこの人数ならば大丈夫」と思っていた。










今回の峡谷の戦いでイングマルの姿を見たものは誰もいなかった。




石が落ちてきてクロスボウであちこちから撃たれたことだけ、それしかわからなかった。




この犯行も多数の山賊の仕業ということになり、山に山賊が潜んでいるということになった。


しかもかなりの数である。




「イングマルがそれらの山賊と合流している」ということになればうかつに手を出せなくなると判断され、新しい対策が話し合われることになった。





数百名規模の追討隊を編成すべきという意見も出たが少年相手に大そうだ、という意見が多数を占めた。





結論が出ないまま時間だけが過ぎてゆく。



事件から既に3ヶ月以上たっていた。












ヴァーベルト公爵はいらだっていた。




時間ばかりが過ぎて一向に情報が入ってこない。





イングマルを目撃した人は多数いるのに。








「口先ばかりの賞金稼ぎが、全く当てにならない」と 古くからの付き合いのあるサムソン・ランツ伯爵を呼び出した。




古くからの付き合いと言っても一方的に公爵がこき使っているのだが代々公爵家とは主従関係にある。




さらに殺されたマティアス・フエルトの父、フェルト伯爵は親戚にあたる。




若くて剣の腕の確かなランツ伯を公爵は何かと「便利だ」とよくこき使ってていた。




公爵領から逃亡した農民を捕まえる仕事も彼が指揮していた。




1家族を取り逃したという報告ががあったが他の仕事を終えて戻るとすぐ公爵に呼びだされたのだ。





汚れ仕事ばかりさせられるのを嫌々ながらも確実にこなしていた。





そして今度は「少年を殺せ」という。ヘドが出る思いだった。




話を聞いてあまり親しく付き合っていなかったが親戚の息子が殺されたと聞いて二つ返事で引き受けた。





しかし詳しく調べているとどうも殺された側に明らかな非あるようだ。





しかも相手は丸腰だったこと、3対1だったことなど詳細がわかればわかるほど剣術試合に堂々と勝利したことなど、むしろ賞賛すべき人物と思うようになった。





「この少年のことをもっと知りたい」と思うようになり、学園の関係者たちにも面会して回った。





剣術試合で重傷を負ったフランクの家にも訪ねた 。




父親が面会を拒否していた。




前回、イングマルの取調べ官が来た時も「イングマルには全く非のない、友人想いの立派な少年だ」といっても死刑判決が出た。




フランクの父親はもう貴族を全く信用していなかった。




しかしランツ伯は「イングマルのことをよく知りたいだけだ」と説得した。




出来れば助けたいという。




父親は少し態度を良くし、事件前後の事なども詳細に聞き出すことができた。










「助けてやりたい。」これはランツ伯のうそである。





ランツ伯の頭の中はその逆「なんとしてもこの少年を捕らえたい、いや正確には勝負してみたい」という思いだった。





このところ汚れ仕事、女子供、年寄りを脅して痛めつけるようなそんな仕事ばかりにうんざりしていた。





本当に強い相手と遠慮なく戦ってみたい。





本気で斬り合えるのはこの少年だけではないだろうか。





そんな思いを抱いていたのである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る