第22話 事件2
事件は直ぐ世間の知るところとなり多数の目撃者がいたことからあっと言う間に広がり、この国だけでなく周辺各国にまで知れ渡って大騒ぎとなった。
国王自身がこの事件を正確に調査するよう命じ、学園前は連日の人だかりとなった。
イングマルは衛舎に収容されてからすぐ近くの城にうつされ収監された。
衛士が常に監視につき手かせをされたままである。
その間イングマルは何も覚えておらず、ずっとうつろな目をしてうつむいたままだった。
面会は誰もできなかった。
数日後、国王直属の取り調べ官が来て質問をしてもイングマルは下を向いたまま「あー」とか「うー」とかいう魂の抜けたような反応しかしなかった。
仕方なく取り調べ官は目撃者を集め、ロベルトも調べられた。
目撃者の証言内容はほぼ全員一致していたので取調官は王都へ戻り国王に報告した。
イングマルは何日もうずくまったままで憔悴しきってた。
2週間後、広場で裁判が始まった。
事実内容の確認が行われ「被害者側に非があるとは言え3人もの命を奪ったことは重大であるが被告は少年であり死刑はふさわしくない。」と言う意見が多かった。
しかし公爵が「死刑以外はあり得ない!」と主張した。
身分も指摘され「身分下位のものが上位のものに逆らい、まして殺害に及ぶなど体制にも影響がある!」という意見が出て、議論はなかなかすすまず判決が出なかったが公爵の強い主張に押され結局死刑の判決が下った。
見学していた者はざわついていたがどうすることもできず、明後日死刑執行が決定した。
その日の夜、学園長が面会に来た。
イングマルは虚ろな瞳を学園長に向けていたが何も言わなかった。
学園長はただ「こんな事になって残念だ。」とだけ言って行こうとした。
イングマルは「ロベルトは無事ですか?」と聞き、学園長は「無事だ。」と言って帰っていった。
イングマルは明日死刑になるという現実がわからないのか?もうどうでもいいのか?魚の燻製を食べ損なったことを少し残念に思う程度のことしか考えていなかった。
「犬のトミのいなくなった世界で生きていても仕方がない」と思い「早く会いに行けるならそのほうがいい」と思っていた。
そう思うと少し心が軽くなった。
夜中に物音がし面会人がきた。
叔父だった。
「まさか」と思ったがイングマルは叔父にひざまずいて頭を垂れた。
叔父は黙ってイングマルの頭を撫でていたが叔父は「犬は死んではおらん。」と言い出した。
イングマルは「えっ?」と頭を上げて聞き返した。
「無事だ、奴らのハッタリだ、お前をけしかけ激昂させ、はむかってきたところを斬る。そういう算段だったんだ。」と言った。
イングマルはそれを聞くと「わーッ!」と泣き出した。
そして激しい後悔が襲ってきてどうにもならず、泣きわめきながらげーげー吐き出した。
地べたを転げ周りあちこち体をぶつけてやっと疲れたのか?収まってよろよろと立ち上がった。
もう一度ひざまづいて泣きながらあやまりつづけた。
叔父はイングマルを立たせると「お前は生きなければならない、生き続けろ、それがお前の罰だ。」といった。
イングマルは「しかし」というと叔父は「後の事は心配するな、隣国のエストニアまで行けばだれも手出しできない。」と言った。
イングマルは「しかし叔父さんの立場が」と言ったが叔父は「心配するな大丈夫だ。手は打ってある」といった。
イングマルの背中を叩くと叔父の持ってきた袋の中に鎖かたびら、革のベスト、短剣2本、刀剣、水と食料、金が入っていた。
イングマルはすぐそれらを身につけると檻から出た。
なぜか衛士も門番もいない。叔父に買収されたのか?
城を出ると裏口に2頭の馬が待機していて、イングマルはそれに飛び乗った。
案内の協力者が先導し走り出す。
後ろを振り向いたがおじの姿は見えなかった。
イングマルたちは暗闇の森の中に消えていった。
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