第23話 逃亡
翌朝になってイングマルが脱走したニュースはすぐ全土に広がり、大騒ぎとなった。
死刑会場には見物人が早くから集まってていたのに、イングマルが脱走したニュースでさらに大騒ぎとなる。
国王個人としてはイングマルに同情していた。
公爵の最近の振る舞いを苦々しく思っていたので、今回の事件はせいせいする思いだった。
山賊や盗賊の討伐は国王の名で行われるが、今回の事件はあくまで私闘である。
「私闘に国王の命令で兵を動かすのはそのこと自体が国の権威に傷がつくのではないか?」という屁理屈を国王の意を汲んだ家臣のものが言い出した。
あくまで私闘ならば、当事者の責任において処理すべきだという。
公爵はそれを聞いて憤慨し抗議したが「その後どう処理をしてもよい」ということでそれに納得し「公爵自身がお金を出す」ということで自らが責任者となった。
公爵は断頭台の上に立つと大声で「イングマルをつかまえたものには賞金を出す。!生死は問わない。!金貨千枚だ。!」と宣言した。
会場内はヒートアップして、ますます大騒ぎとなった。
さっそく何人もの男たちが準備をするためあっちこっちに散っていった。
このことは会場内だけではなく全国に広がりやがて近隣各国にも広がり「他の国の人でもだれでも良い、イングマルを捕らえたものには賞金が出る。」ということになった。
イングマルは賞金首となってしまった。
戦争がないときに傭兵は用心棒となるか、それ以外は賞金稼ぎとなるか、ほぼそのどちらかである。
仕事の少ない彼らは殺気立って、ささいなことであちらこちらでトラブルを起こしていた。
そんな中今回生死を問わない賞金首は彼らには格好の獲物であり、なぶり殺しにしてストレス発散もできて一石二鳥である。
こういう仕事を何度も経験している傭兵崩れや元傭兵がすぐ食料、装備を整え集まった。
普段は別にチームを組んでいるわけではなかったがすぐいつものメンバーが集まり6人が第一陣となった。
「イングマルらしい2人組が南に向かった」という情報が入るとすぐ出発した。
イングマルは昼も夜も駆け続けた。
走りながら食べて飲んで時々は馬から降りて自分で走り、休みなく走り続けた。
案内人も付いて来れなくなった。
案内人は叔父が雇った傭兵であった。
「これ以上巻き込むのは申し訳ない」と別れることになった。
案内人に「遠回りをしてでも必ずエストニア向かう事を叔父に伝えてほしい。」と伝言した。
案内人は自分の分の食料を渡してくれて2人は別れた。
先へ進み何日か逃げ続けた後深い森に入り、隠れやすい場所を見つけてやっと休憩した。
数分ごとに寝て起き寝て起きての繰り返し常に警戒する。
暗くなってからまた前進した。
どんなに隠れやすい場所でも3日以上いないように移動した。
手持ちの食料がなくなると魚釣りをしたり、野うさぎなどを狩って食べしのいだ。
瞬く間に数週間が過ぎたが、2日前から確実に自分に近づく気配を感じていた。
体自身が警報を出している「すぐに動け」と。
追手はすぐに追いつこうとはせず、しかし確実に距離を詰めてきている。
さらに2日後とうとう視界に入った。
6人の馬に乗った男たちだ。
イングマルは馬を降りて森の中に分け入って茂みに隠れていた。
地面から馬の振動を感じる。
やがて目の前を馬上の男たちが通過して行く。
彼らも数週間休みなく動いていたのだろう、どろどろの姿だった。
1人はクロスボウを持っている。
なれた賞金稼ぎなのだろうイングマルの気配を感じているのか?あたりを警戒していてしばらくすると先へ行ってしまった。
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