第18話  出発1







イングマルは剣を手に取ってみた。




それが普通の刀剣でないことがすぐ分かった。




両刃の剣は研ぎ上げられて青黒い鈍い光沢を放っている。




剣としては少し短めだがイングマルには丁度良い大きさであった。




イングマルはすぐ叔父のもとへ向かうと礼を言った。






これはもともと叔父が商売上、自衛のため自分用に作らせておいたものだがイングマルが試合に勝ったので急遽イングマルのサイズに直してもらったそうである。



イングマルは少し申し訳ないと思っていたが、それでも喜びは隠せなかった。






しかし「刀剣は今は置いて行く。」といった。




学園に刀剣を持って行くと目立つし、盗難やいらぬ誤解を招く恐れがある。




防具だけもらっておくことにした。





学園内に刀剣の持ち込みは禁止されてはいない。




現に貴族の息子達の大半は家の伝来の剣を持ち込んでいる。


最も常に持ち歩くものではないが。





刀剣を持って来たとなれば必ずトラブルになるとわかっているので、置いておくことにした。




叔父もそのことには同意のようで「まあ好きにしろ」と言ってくれた。




イングマルは早速、鎖帷子を着込んでいた。




その後昨夜干しておいた魚を薫煙機に入れてから楢などのチップやおがくずを集めて燻製にした。




「昼過ぎにはできるだろう」と使用人に言っておいた。




自分で食べる時間がないのを少し残念に思っていたがもう学園に戻らなければならないので仕方がなかった。




朝食後荷造りを済ませ家中の人に挨拶をして皆に見送られながら学園へ向けて出発した。









早足でいけば夜までに到着できるであろう。



途中フランクをもう一度見舞うつもりである。








森の横の街道を早足で歩いていると後ろの方から馬に乗った一団が走ってきた。


2人の騎士と2人の傭兵だ。




馬上のままイングマルを取り囲むと騎士の1人がイングマルに名前を聞いた。




イングマルは素直に「マクシミリアン学園の生徒イングマル、ヨハンソン。これから学園に戻るところです。」と言った。




というと1人の騎士が「マクシミリアン学園?」とつぶやきイングマルを上から下までじっくりと見た。





「我らは今、ヴァーベルト公爵領内から逃亡した農民を探している。覚えは無いか」といった。




イングマルは首を振って「知らない」と言った。




騎士たちは「そうか」と言うと、そのまま街道を走っていってしまった。







「昨日からの視線はもしや」と思ったが、厄介事に巻き込まれるのは面倒だったのでイングマルはそのまま知らん顔して先に進んだ。





街道筋の森の入り口に入って森の中に行くと、先の方から何やら騒いでいるのが見えた。






おそるおそる隠れながら近づいてみると、先程の騎士と傭兵が数人の人を捕まえて引き倒しているところだった。




大人の女2人と少女が1人、男の子が1人おり、どうやら家族のようである。






イングマルは少し迷ったがよく考えもしないで行動していた。







イングマルは騎士たちの馬をつないでいる木立の近くの茂みに隠れながら近づき手綱を切ると革のベルトの端に細い木の棒を結びつけ馬の足もとに投げ、その枝を動かしながら革ベルトが蛇のように見えるように動かした。




馬は驚いて四散してどこかへ逃げてしまった。






それを見た男たちは1人を残して、3人は馬を追いかけていってしまった。




1人残った傭兵は女性を押さえつけたままだった。





イングマルは革ベルトを再び手繰り寄せ、2つ折りにして真ん中に握りこぶしほどの石を挟みベルトをぶんぶん回して片方のベルトを放つ。






傭兵の眉間に命中し傭兵は仰向けに倒れ、頭を地面の石に叩きつけられて気絶してしまった。




イングマルは彼のベルトを外し手足を縛ると、驚いて見ていた農民たちの縛られていた縄を解き子供を背負い少女の手を引いて走り出した。





戸惑っていたがイングマルは「早く」と一言だけいい、少女は母の手を取り母はその母の手をとり、じゅず繋ぎで森の奥へ駆け出した。








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