第17話 帰り支度
叔父の耳にはそれらの裏事情までもが届いていた。
商売上情報はすぐに入ってくるようである。
イングマルは自分の大会での勝利が家の立場を危うくするのではないかと危惧していたがこれらの事は関係なく、以前から公爵家自身の振る舞いが災いを招き寄せていたのだ。
「イングマルの行動とは関係ないのだ。」と強く言っておいた。
「これからイングマルには様々な問題が降りかかるであろうからとにかく注意せよ。」と言うとことを強調した。
イングマルは自分に出来る事は無いか聞いてみたが「自分の身を守ることだけ考えておけば良い。」という事だけだった。
イングマルもそれ以上のことは何もできないことを知っているので、それ以上は聞かなかった。
その夜は寝る前に塩漬けにした魚を水洗いし、軒先に吊して干しておいてからイングマルは自分の部屋へ行かず納屋へ行き動物達と一緒に寝ることにした。
寝藁を集めてベッドを作り、毛布を敷いてくるまって寝た。
馬も犬も鳥ちゃんもイングマルの元によってきて、皆がくっついて一緒に寝た。
その夜イングマルは夢を見た。
動物達と一緒に釣りをしている。
夢なのか昼間の続きなのか、とても幸せな気持ちだった。
翌朝いつもと同じように起きると薪割りをし納屋の掃除を済ませる。
昨夜のうちに済ませておいた荷造りをもう一度確認しに部屋に戻ると机の上に剣や防具などが置かれていた。
叔父がイングマルのために作らせておいたものである。
刀剣、鎖帷子、革のベストの上から取り付け出るスチールのプレートである。
鎖帷子は通常のものとは違い、軽くてしなやかである。
しかし強度は従来のものよりも硬くて丈夫で特殊な熱処理をしながら加工してあるので、ハンマーで叩いても鎖の一つ一つは変形しないほど丈夫である。
これを着てみると普通の服を着ているのとなんら変わることがない着心地で、表裏から布を取り付けているので見た目にも普通の服に見える。
下から来てもシャツの上から着ても着れる。
動きも全く妨げにならない。
イングマルは大変気に入って喜んだ。
刀剣も鎖カタビラと同じ素材でできており、より固くなるよう熱処理が施してあった。
この素材は近年発見された隣国からのみ産出する鉱石を原料の金属を生成する段階でごく少量混ぜることで非常に強度の高い鋼なる。
叔父はこの原料を取り扱う商売をしている。
この鉱石は大変希少なもので、本来は国外の持ち出しは禁止されていた。
隣国はこれを国王の専売にし完成された製品のみ限定的に販売するようにした。
武器や武具の加工は禁止されている。
本来は禁止されているのだが剣も鎖帷子もこの材料を使って作られていた。
原料が手に入れば誰でもできるというものではなく、きわめて複雑で高度な熱処理をしなければならずノウハウを持っていないと加工できないものであった。
叔父はこの製品を取り扱える株を、隣国の国王から発行してもらった。
この株はこの国の国王から信頼され、隣国からの国王からも信頼されている者しか発行が許されない。
国内では数人しかいなかった。
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