第19話  出発2





街道から外れて森の奥は薄暗くて見通しが悪く、背の低い草木がうっそうと生い茂りその中をイングマルたちは進んでいった。





やがて湿地帯になった。




この森はイングマルが叔父に引き取られてからよく遊びに来ていたので迷うことはなかった。





母親たちは「もうしんどい」といい、へたりこんでしまった。





「湿地を抜けるまで頑張って」と励まして先に進んだ。





湿地帯を抜けると岩の多い荒れ地に出た。




その岩陰で少し休憩をした。




イングマルの荷物から水と食べ物を皆に分け与えた 。





みんな飲まず食わずだったのか、我慢できずむさぼるように食べていた。








イングマルは周りを見渡し警戒しながらこの先どうするかを考えた。








母親と思われる女の人が「私たちは国境近くの村にいたのですが、ヴァーベルト卿に無理やり労役を命じられて、逃げ出さないように子供達を人質に連れて行かれるところだったのです。




主人が労役をサボったり逃げだしたら、私たちにひどい仕打ちをする。




だから逃げ出しました。




他にも大勢とらわれてしまいました。




元いたエストニアの国になんとかいこうと思っています。」と話した。






今いる場所からヴァーベルト公爵領を抜けていくのが1番の近道なのだが、捕まるリスクが高い。






しかしここなら隣のテイラー伯爵領に向かい、そこからエストニアに向けた方が安全だと判断した。





テイラー伯爵は叔父とも懇意にしていて、イングマルも何度か見たことがある。




テイラー伯爵領は荒地を抜ければすぐのところである。





休憩の後もう少し進んで昔イングマルが使ったことのある高台に皆を隠した。





少し高いところに岩だながあり、下から死角で何も見えないが上からは周りがよく見える。





ここで暗くなるまで待つことにした。




彼女たちはすぐ眠ってしまった。




イングマルは暗くなるまでずっと警戒していて、すっかり暗くなってから皆を起こした 。




再び子供を背負い、みんなの手を引いて出発した。





1時間ほど進んでは休み、1時間ほど歩いては休みを繰り返しながら夜通し移動をつづけた。





テイラー伯爵領内に入り地元の人しか使わない林道を抜け、やがて国境線のケム川に出た。





辺りはもう少し明るくなってきていた。





数年前の大水害の爪痕がこのあたりにもあり、あっちこっちの畑や土手が崩れていた。




もっともそのおかげでいたるところに浅瀬ができ、簡単に川を渡ることができた。





日が昇る頃には、エストニア領内の街道に出ることができた。





彼女たちは抱き合って喜んだ。





イングマルもみんなから抱きつかれ、激しいキスを受けた。





イングマルはびっくりして尻餅をついてしまった。





皆笑っていた。





母親は「ここまでくればもう安心。」と言っていた。





イングマルも「これでもう大丈夫だね。」というと子供を下ろして走って行ってしまった。




皆「待って!」と叫んだが構わず走り続けた。





最後に「ありがとう。」と言う声が聞こえた。





イングマルは最後に手を振って行ってしまった。





走りながら心臓がドキドキとなっているのがはっきりとわかった。






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