第10話 準決勝1
昼休みの間もイングマルとロベルトはあたりを警戒しながらロベルトが持ってきてくれた弁当と水を口にしたが、イングマルは上の空で何を食べたか覚えていない。
試合に集中しなければと思いながらも、なかなか集中できなかった。
午後から1時間ほどして、再び試合が始まる。
3回戦のイングマルの相手は公爵の息子の取り巻きの1人、男爵の息子のヨルゲンオーバリであったが怪我を理由に出場を辞退しイングマルの不戦勝だった。
さっき本人を見たが怪我をしているようには見えなかった。
残りの試合をイングマルは見ながらこの先の対戦をどう進めて行うかを考えていた。
次はもう準決勝である。
イングマルが呼ばれ対戦相手の名が呼ばれた。
取り巻きの1人、フランクを負かしたマティアス・フェルトである。
残り4人となり、会場も客席も満員で大いに盛り上がっていた。
マティアスはフランクの時と同じ軽甲に長めの木剣、飾り付きのヘルメット左腕に小さな盾をつけている。
フランク戦の動きを見てなかなか侮れない相手であることが分かっていた。
その後フランクをリンチした邪悪さを合わせ持っていることを考えると何か仕掛け、小道具を使うことは予想できる。
飛び道具を持っているようには見えない。
考えられるのは毒か、目潰しか。
イングマルは試合が始まる直前に自分の木剣に亜麻仁油をたっぷり塗っておいた。
亜麻仁油は木用の塗料だが乾くのが遅く数日かかる。
塗りたてではベタベタのままである。
イングマルは目潰しが使われた時にはこれを振り回し、少しでも粉を吸着させてしまおうと考えた。
さらに首もとに濡らしたバンダナをまき、少しでも肌を出さないようにした。
気休めにしかならないことはわかっていたが、何かをせずには居られない。
試合開始の合図で2人は慎重に距離を詰めて行く。
イングマルは無駄なうち込みは疲れるだけなのでなかなか打とうしない。
マティアスの方が打ち込んでくる。
剣が長くしかも右片手なので非常に射程が長い。
イングマルは大きく飛び退く。
そこをすかさずマティアスが打ち込んでくる。
イングマルも同時に相手の懐に入り込もうと身を縮めてはいるが、相手の左手の盾で薙ぎ払われる。
よけたところを剣で打ち込まれる。
イングマルは低姿勢のまま僅かのところで剣をかわし、マティアスの剣が地面を打つ。
同時にイングマルはマティアスの右腕を伸び上がりながら打ち上げた。
籠手の上からであまりきいてない。
両者は再び構えなおす。
イングマルはマティアスの左側に飛び込み上段から打ち込もうとする。
マティアスは素早く盾で受けようと左腕を掲げるがイングマルはそのまま身を縮め、マティアスの脇腹下から伸び上がりざまに打ち込んだ。
わずかのところでマティアスは身をよじり、軽甲の胴の部分に命中した。
その瞬間イングマルに粉が吹きかかった。
イングマルは素早く飛び退いた。
どうやら目潰しのからし粉や石灰を混ぜたもののようであった。
刺激臭がしたがイングマルは息を止めていたので吸い込むことは無かった。
バンダナを鼻の上まで上げて、煙が消えるのを待った。
マティアスはニヤニヤしている。
軽甲の内側に目潰しを入れた袋があり、軽甲を圧迫するとチューブから粉が吹き出るようになっているようだ。
イングマルはせこい真似をと思ったが、うかつに近づけないし軽甲には打ち込めない。
しかしイングマルはすぐに対策をとっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます