第11話  準決勝2





 




イングマルは常に風上に回りこんだ。





 祖父と猟に行くときには常に風下に行くのだが、今回は風上に行く。




 外から見ていると、オタオタした無駄な動きに見える。



イングマルが焦っているように見えた。






しかしイングマルには他の者に感じることができないような微風でも感じ取ることができた。




 さらにこれから吹いてくる風の向きもわかった。




 目潰しの仕掛けがわかるとイングマルはタイミングを合わせて、わざと胴を狙い激しく打ちこむ。




 すばやく後ろに下がるとすぐに風が吹いてきて、噴き出した目潰しがマティアスのほうに向かって流れていった。




 たまらずマティアスは後ずさりながら顔をゆがめてゆく。






 イングマルは常に風上に回り込み、構わず胴を打ち続ける。






すべての目潰しがマティアスのほうに流れてゆき、風下の客席の方にも流れていった。






 客席でもくしゃみや咳こむ人々が続出した。






 マティアスはたまらずに軽甲を脱ごうとしたが軽甲はバックルでしっかり止められるているので、他の人に外してもらわないと簡単にははずせない。




まして籠手を着けていては無理である。




 マティアスはそれでも無理やり首を抜いて脱ごうとしたが、ヘルメットが引っかって軽甲内に顔が入ったところでもがいていた。




 お腹がむき出しになり、イングマルはみぞおちに剣を打ち込んだ。





 マティアスは「うがっ!」と声を上げうつ伏せになり転げ回って苦しんだ。





 それでもしばらくしてよろいろと立ち上がると結局軽甲は脱げず、元に戻った。




 マティアスは咳き込みながら涙、鼻水、ヨダレが出っぱなしで充血した目で苦しそうにあえいでいた。




 そのままげーげー吐き出した。




 イングマルがそれを見ながらさすがに哀れに思ったがフランクにしたことを思いもう一度構え直した。





 マティアスもあきらめず剣を拾い上げ、構えなおすと打ち込んできた。





 しかし誰でも避けれるようなヨロヨロとした大振りでもう誰が見ても勝負にならないことがわかっていた。





 しかもさっきもがいた拍子にチューブか何かの部品が外れたのか袋が破けたのか、激しい動きをしただけで目潰しの粉が吹き出してしまう。





 剣を振れば振るだけマティアスは粉まみれで苦しそうにあえいでいた。





 イングマルはもうやる気を無くしてしまっていたのだがこの後をどうしていいのかわからず、しばらく様子を見ていた。




 止めを刺すべきか、否か。





 相手が降参しない以上、戦いは続けなければならない。




しかし戦闘不能の相手を打つのは騎士道に反するのではないかと思い迷っていた。




 しばらくして風が煙を消してくれた。





 マティアスはイングマルが自分を汚い汚物を見るような目で見ていると思い込み、怒りに我を忘れて剣を拾い上げイングマルに飛びかかってきた。




 イングマルは正眼に構える。








 マティアスが剣を振り下ろした瞬間、イングマルは下段から剣を打ち上げマティアスの顎の先を打った。






 マティアスはそのまま倒れて動かなくなった。






 マティアスのひどい姿に、客席は静まり返っていた。






 レフリーの「それまで!」の合図に、イングマルは一礼して試合が終わった。






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