第7話 2回戦
フランクが担架で運ばれて行き勝利したマティアスだったが、そうとう左腕が痛いのか苦痛の表情だった。
左腕を押さえながら去って行く。
間もなくイングマルが呼ばれた。
相手は伯爵の息子、ラルフストレームだった。
彼も背が高い赤髪の青年だった。
磨き上げられたスチールの軽甲に、金の模様のふちどりが施されている。
メッキではなく象眼で作られているようで、どこから見ても非の打ち所がないほど美しい。
客席からファンらしい、黄色い声援が飛んでいた。
腰には白鳥の羽毛が、腰簑のように巻かれている。
木剣はイングマルのより少し長いが、イングマルは気になる部分を見つけた。
木剣なのに通常ではあり得ない部分に鋲が打たれている。
剣の大きさのわりに、なんか重そうに見える。
イングマルはまさかと思ったが、鉄心が仕込んであるののではないかと思った。
そう思うと腰のフリフリも気になってきた。
何かしら隠しているのではないかと気になる。
両者相対して「始め!」の合図がなされる。
ラルフは両手で剣を持ち上段斜めに振り下ろし、下段から上段続いて右左横一文字にと連続攻撃をしてくる。
イングマルは距離を取りながら、ひょいひょいとかわし続ける。
相手の剣を受けると見せかけて相手の足元に転がり込んで、ラルフの股下をすり抜けた。
下からラルフの腰簑の中身を見るためである。
やはり細身のナイフか、ピックのようなものが見えた。
客席から笑い声がした。
ラルフが振り返り剣を構え直した時には、イングマルはすでに正眼に構えていた。
イングマルの思いもよらない動きに、ラルフの怒りが誰の目にもわかった。
肩で息を切らしながら、真っ赤な顔を歯ぎしりしながらイングマルを睨み付けていた。
すぐにラルフは連続攻撃を加えてくる。
イングマルはおちょくるように、ひょいひょいと攻撃をかわしている。
ラルフは疲れてきたのか、少し攻撃の速度が落ちてきている。
イングマルはかわし続けるかと思わせながら隙をついて相手の右側面に出て、同時にラルフの右腕を打ち付けた。
籠手の上からだったので打撃力はいまいちだったが、利き手を打たれてラルフはひるんだ。
その後のラルフの攻撃は明らかに打撃、速度ともに切れがない。
両手で扱わないといけない、仕込みの重い剣が裏目に出たようだ。
先ほどと同じくラルフが打ち込んでくるのに合わせてイングマルは再びラルフの右側に体を縮めて入り込み、ラルフの振り下ろしてくる右腕を下段から打ち上げた。
籠手のない部分を打ち込んだので、今度は効いたようだ。
ラルフは剣を落としてしまい、右腕をおさえた。
しかし素早く剣を拾い、左手で剣を構えた。
右手を添えているが、とても苦しそうだった。
ラルフはひるんで前に出ようとしないので、イングマルが前に出る。
それを打ち据えようと、ラルフは剣を振り下ろす。
イングマルはラルフの左側へ出て、再び下段から左腕を打ち上げた。
「うぐっ!」と声を上げてラルフは剣を支えにしてうつむいてしまい、両手を抱えて震えていた。
イングマルは何だか気の毒になってきたが、それでもラルフは降参しようとしない。
再び剣を正眼に構えた。
イングマルは、けりをつけようと前に出て打ち込む。
ラルフの右手の指の付け根を打ち据える。
ラルフは後ろに下がって距離を取る。
がその瞬間、イングマルは前に出て下段からラルフの腕を打ち上げ、剣を飛ばし、そのままラルフの軽甲の後ろをつかんで後ろに引き倒してしまった。
ラルフはしりもちをついて何が起こったかわからず、驚いてしまっている。
イングマルはラルフの剣を拾い上げ剣を一見すると地面に斜めに立て掛け、イングマルの木剣でラルフの剣の木部分を叩きのめしはじめた。
何度か叩いているうち木部分が割れて裂け、中の鉄心が現れた。
長さ50cm 、厚みが3cm程もある、鋼の角棒である。
イングマルは、それをレフリーに渡した。
レフリーはそれを見て驚き、客席にいた数人の人と何かしら話していた。
ラルフは驚いて見ていたが、怒りが爆発したのか「貴様!」とわめきながらイングマルに飛びかかって来た。
左手に細身のナイフが握られていた。
幅1cm長さ15cm程、フィレナイフのような形をしている。
それを振り回しかかってくる。
客席からいろんな声が飛んでいたが、ラルフは体制を立て直し低く身をかがめ左手で突くようにしてイングマルめがけて突っ込んできた。
イングマルもそれに合わせて身をかがめ、目線をラルフと同じに合わせる。
イングマルは縮めた体を勢いよく伸ばし、同時に右腕を伸ばす。
ラルフの勢いとイングマルの勢いがすべて木剣の先に集中し、ラルフの顎に命中した。
ラルフはそのまま前のめりに倒れ込んで、白目を剥いて伸びてしまった。
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