第5話 ロベルトの試合
イングマルは一礼すると、相手方は担架にのせられて運ばれて行った。
「ほう。」という声が、客席から聞こえてきた。
平民身分のものが、貴族を打ち破ったのは最初のことだったようだ。
続いてロベルトが呼ばれた。
ロベルトの相手も、男爵の息子である。
背の高い、ガッチリした少年、というか青年だった。
幼さは全く感じられない。
ロベルトも同じぐらいの大きさ。
ロベルトは金箔を施した革製の軽甲を着ていた。
一見すると金属のようであったが、革製で非常に軽い。
そしてこの前持ってきていた、美しい木剣を両手で構えていた。
「よし、いってくる!」と気合いをいれた。
お互い同じようなスタイルで、激しく打ち込んできた。
ロベルトも両親が雇ってくれた剣術指南師に指導を受けていたので、同じように剣をさばきながらほぼ互角の戦いを続けた。
互いに大振りな剣を激しく打ち合い、ロベルトの美しい剣もすぐにボロボロになっていた。
相手の剣がロベルトの軽甲に当たるたび金箔がポロポロとはがれて、だんだんとみすぼらしい姿になっていった。
しかし深刻なダメージを受けていたわけではなかったのだが、剣も軽甲も汚くなると同時に、ロベルトの勢いもなくなっていった。
それに合わせて相手の攻撃は、ますます激しくなってゆく。
ロベルトは防戦一方になり、とうとう剣を叩かれて落としてしまった。
ロベルトは両手を挙げて降参した。
「それまで!」という合図で一礼する。
男爵の息子は、不敵な笑みをうかべていた。
「イヤー参ったね。やっぱりだめだったよ。」
ロベルトは照れくさそうに戻ってきた。
「惜しかったね。始めは互角だったのに。」イングマルも残念そうにいった。
「凄い打ち込みなんだ。あんなの受け続けるのは無理だよ。」
そういいながら革製の甲冑を外しはじめた。
金箔が剥がれ革の地が見え、イングマルにはこのほうが渋くてカッコいいと思ったのだが、ロベルトにとってはもう汚いゴミのように見ていた。
木剣も同じく角がとれてボロボロで、金彩の文字もほとんど読み取れなかった。
ロベルトが脱ぎ散らかした甲冑をイングマルは見せてもらった。
着けて見るとなかなかいい具合だったが、イングマルには少し大きかった。
それにイングマルの激しい動きに甲冑がついてこない。
「要るなら使っていいよ。」とロベルトはいってくれた。
「うん ありがとう。 でも僕のスタイルでは使いにくいなあ。」と辞退した。
「気よつけろよ。イングマル。この先、盾持ちなんかも出てくる。
皆、平民を堂々と、皆の前で打ちのめせるのを喜んでるようなやつらばっかりだ。
もう不利とわかったら、さっさと降参した方がいいぞ。」
ロベルトは警告したが、イングマルは「それは彼らにも言えることだ。同じだよ。」と当然のように言った。
平民は負けるのが当たり前であり、そうなっても影響は少ないが貴族が平民に剣で破れれば彼らの存在意義が問われる。
彼らの方が必死になるのは当然である。
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