第3話  剣技と装備


だが、どんなに稽古に励もうともやはり平民身分のものには不利だった。





 多くの者は剣術試合は始めてであり、剣など触ったことの無いものだった。



 試合では木剣が使われるが、付け焼き刃で何とかなるものではない。




イングマルは皆の動きを見ながらそう感じていた。




 やはり子供の頃から稽古してきた貴族の子供たちの方が、一日の長がある。




 しかしイングマルはその姿に、見た目の形にこだわる傾向を見てとっていた。



 大袈裟な構えと、大振りな剣の振り。




あれでは簡単に予想してよけれる。



 受ける側も避けずに剣でうける。




派手な音がして見た目にも勇ましい。







 イングマルは朝の素振以外、特別な稽古はしていなかった。



 皆の前で自分のスタイルを見られるのが嫌だったし、


自分でも気づかない癖を読まれたくなかった。





 剣は自分で作ったもので、樫の木を削って作った。



 剣など消耗品だと考えていたので、見た目など全く気にしてなかった。





 イングマルは幼い頃から祖父に憧れていたので、森にいた頃から剣術を修練していた。





叔父の傭兵に教わった武術も合わせて、自分なりの剣技をいくつか編み出していた。






 森にいた時、赤ネズミの動きを見て編み出した技と、ネズミを襲う山猫を見て編み出した必殺の剣である。




 このふたつがあれば、誰にも負けない自信があった。




 丸太や草藁を束ねたかかしを相手に散々稽古してきたが、生身の人間を相手にしたことはなかった。




 木刀とは言え必殺剣は危険なので使わないことにしていた。




試合用に改良した技を使うつもりである。








 「イングマルは稽古しないのかい?。」



 ロベルトが木剣を振り回しながらやって来た。



 彼も平民身分で、今回初めて試合に出るつもりでいる。




 


 「しているよ。準備万端、いつでも大丈夫。」



 そういいながら、イングマルは長すぎる皮ベルトを短く摘めていた。





 「そんな風には見えないね。もう諦めてるのかい? まあ、それでもいいけど。ライバルが1人減るし。」






イングマルはそう言われても別に気にせずにいた。


「君こそ大丈夫なのかい?その木剣、何だか長すぎるように見えるけど?」






「なに言ってる? マルセルの工房でつくってもらった特別製だぜ。見ろよ、この輝き。」






 確かに見た目は美しい。



樫の木で作られ長剣の形をしている。



 表面を少し焼いて上から亜麻仁油を何回も塗り、ワックスで磨き上げられている。




 赤みかかった飴色は、飾っておくには最高かもしれない。



 手元近くの刃の背の部分には、[ロベルト]と金彩で描かれている。






 「それ、いくらしたんだい?」イングマルは聞いた。




 

「さあね。僕は知らないよ。甲冑も一緒に作ってくれた。試合にはそれも着ていくよ。」ロベルト自分の剣を眺めながら答えた。




「甲冑って? まさか本式のじゃないだろうね?。」イングマルは自分の剣を見ながらうっとりしているロベルトに少しあきれながら聞いた。





「もちろん本式さ。せっかくの晴れの舞台。ショボいのじゃみっともないだろ?。」当然という顔をしてロベルトは答えた。




「 あのなー、試合じゃ木剣で打ち合うんだよ、甲冑なんか着ていたら、まともに動けないよ。せめて革製のにしなよ。」本気であきれたイングマル。





「 う~ん、でも革製てなんか地味だろ。黒いし。」ロベルトは不満げに答えた。





「 それこそつくってもらいなよ。金色に塗ったのや、金箔貼ったの。」


イングマルは冗談のつもりで言ってみただけだが、ロベルトは「なるほど。」と本気にしてしまった。






「 さすがイングマル。いいこと教えてくれた。早速父に相談してみよう。」



「ところでイングマル、君はさっき準備万端ていってたけど、装備はあるのかい。? 何も用意してないみたいだけど。」今度はロベルトが少し不思議そうに聞いてきた。




「 僕の木剣はこれさ。」


イングマルはそういうと、足元の棒を見せた。



本当に単なる棒である。





 握りの部分は丁寧に削ってあったが、それ以外は鉈で削ったままである。



 しかもなんか汚い。





「防具は叔父から借りた、革ベストを着ていくよ。」


 そういうと、摘めていたベルトを直し、革製のベストを着てみた。




 焦げ茶色したベストで、急所には硬くなめした厚い革を二重三重に縫い込んである。




 「これで完璧だ。」


 そう言うとイングマルは、体を動かして着心地を確かめた。








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