第2話 剣術試合の事情
これまでの学園での剣の試合は、型どうりの見ていても面白くないものだった。
身分上位の者が勝つ、下位の者は従わないといけない。
暗黙のルールであり、公然の秘密であった。
それが今年から実力で勝者を決めるという。
学園長個人の意向とは言え、事情があった。
この国ではもう50年以上戦争をしておらず、戦い方を知らないものばかりであった。
戦いと言えば辺境で商人の隊商を襲う山賊たちとの闘いがほとんどで、これらは傭兵が受け持った。
イングマルも学園に入る前、隊商で手伝っていた時一度山賊の襲撃にあったことがある。
夜に集団で襲って来たが、強力な傭兵がいることが分かるとあっという間に引き上げて行った。
その時は夢中だったが、引き上げた後に恐怖が込み上げてきたのを知っている。
そんなこの国で、数年前大きな水害があった。
何ヵ月も雨ばかりで、夏なのに肌寒い日が続いた。
毎週豪雨が襲い、とうとう隣国との国境線になっていたケム川が氾濫し、流れが大きく変わってしまった。
隣国に1000ha規模で川が入り込み、5つの村と数千人の村人が取り残された。
この地の領主であった公爵は「川が国境線である。」と、一方的に国境線を変更して村人全員を隣国に追放してしまった。
当然隣国の王と隣の領主は猛烈に抗議。
国境線に兵を派遣してきた。
この国の王は公爵に事態の収集を一任し、公爵も村人の追放を一旦解き戦闘になるのは避けられた。
双方ともに、戦争の準備ができていなかった。
しかし、国境線の問題はそのままだった。
国王は将来起こるであろう戦争に備えるため全国に発布。
戦える兵士、騎士を育てるよう通達した。
そんな事情が背景にあった。
貴族の身分の生徒はほとんどお抱えの剣術指導者がいて、稽古をつけてもらっていた。
が、剣術指導者も実戦の経験があるものはほとんどなく、見映えのよい美しい型をいかに美しく見せるかということに重きを置いていた。
平民身分のものでも、かなりの金持ちの家は剣術指導者を雇い生徒に稽古をつけてもらっていた。
学園長の発表以来、明らかに学園の雰囲気は変わっていた。
活気というか殺気というのか、やる気のなかった雰囲気が消し飛び、あちこちで朝から素振りやら模擬戦やら木刀の叩き会う音が響いていた。
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