皇帝殺し

テツロー

第1話  マクシミリアン学園



少年イングマルは、今日も朝から木刀の素振りをしていた。




山にいた頃の日課は薪割りだったが、両親がなくなり叔父の家に引き取られてからもこの学校に入学してからも、朝一番体を動かさないと目が覚めない。


それに、もうすぐ校内剣術試合がある。



平民でも優勝すれば、校内剣士の称号がもらえる。




貴族も平民も同じ学校に入れるのはこの国ではまだ珍しい。


平民の者は全校生徒の内、2割ほどである。





 最もいつも優勝するのは校内で一番身分の高い家の生徒ときまっていたが。




ついてないことに、公爵家の4男がこの学校にいた。




どうせできレース。公爵の引き立て役になるだけだ、と多くのものはあまりやる気がなかった。



 が、この年からは学園長の意向で、平民身分でも試合に出れることとなった。



身分による気遣いも手加減も一切無用、本当に強い者を選ぶという。 





平民と言えどこのマクシミリアン学園は名門である。



入学にはかなりのお金がかかる。




平民身分の者は多くが商家の息子である。




イングマルの叔父も商人で、この国と隣国とを行ききできる特別な株の持ち主で、この国には産出しない鉱石を隣国から買い付けることができる数少ない商人の一人だった。





イングマルも叔父に引き取られ、学校に入る前は叔父やその仲間たちと一緒に仕事を手伝っていた。




武術の基本はその時隊商を守る護衛の傭兵に仕込んでもらった。





 隊商を組んで何日も旅をするのがイングマルは大好きで、このまま叔父のもとで商人として暮らして行くつもりであったが、叔父は何故かこの学校に入れた。




 この商売がいつまでも続くとは限らず、もっといろんな経験をつむためだという。




 貴族と一緒に学校に居るのは嫌であったが「商売をするからには、どんな相手でも渡り会わなければならない。これも修行である。」と有無を言わせなかった。




イングマルの貴族嫌いには訳がある。




 元々イングマルの祖父はこの辺りを治める貴族で、先の戦争でも武勲をたてた人であったが、戦後の王家の陰謀に巻き込まれ領地を追われた。




 辺境も辺境、山深く道もないような所で木こりをしていくしかなかった。




 イングマルの両親は領主の館で生まれ育ったので山での暮らしは耐え難いものであったらしく、いつもぼやいて愚痴ばかりこぼしていた記憶しかない。




 祖父は深いシワと髭、身体の大きな人で山での暮らしの多くを祖父から学んでいた。





 薪割りから家畜の扱い、祖父と何日もかけて行く狩りは冬の楽しみの一つだった。




 一度祖父が街に行く用事があり、連れてもらったことがあった。




何日も野宿して街につくと、街の人達がオドオドして祖父を見ているのを見て不思議だった。 





その後立派な身なりの貴族が祖父をあざけるように見下し、無礼な態度で話しているのを見た。





 内容は分からないが明らかに祖父を侮辱しているのはわかった。祖父は黙っていた。



 それ以来、イングマルは貴族や偉そうにしている者を毛嫌いするようになった。



 程なく祖父がなくなり、亡くなったとたん生活がままならなくなり両親は共に病気がちになり、直ぐに祖父のあとを追うように亡くなってしまった。




 イングマル1人になったが、家畜と犬達が支えとなった。




 山暮らしのひと通りを出来るようになっていたので、さほど不自由は感じなかった。




 燃料の薪に困ることはなく、沢には魚、森には山菜に獣。




イングマルは猟に出れば必ず獲物を獲るほど腕がよくなっていた。





 一人暮らしなので鹿やいのししなら、燻製にして保存すれば数回の猟で何ヵ月も暮らしていけた。




炭を焼き、数ヵ月に一度街に売りに行く生活を楽しんでいた。





 そんなある日、祖母方の叔父さん、という人がやって来て自分を引き取るという。



祖父がなくなる前に自分に託したのだという手紙を見せてくれた。





 祖父から読み書きも学んでいたので理解したが、知らない街の暮らしを不安に感じた。




 街の人と言えば、昔の記憶から嫌な感情がよみがえる。



本心を言えばこのまま森で暮らしたい、と思っていたが外の世界を見てみたいというのもあった。







 新しい運命に従うことにした。



それに、動物たちをみんな連れて行けることになり安心した。






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