第21話 きよし、理解する

 青い空。白い雲。さざめく波打ち際。透明な海。3の字を横にしたみたいに飛び回るカモメ。潮の匂いは久々だ。


 街から馬車で二時間。ビッグ・シティから一番近いビーチにアナルパンダぶりぶりーずの全員は集合する。俺たちの目の前には、短パン、裸アロハシャツ、サングラス、顎髭の褐色兄ちゃんが立っている。金アクセは相変わらずギラギラ輝いてる


「HEY、アナルパンダマザーファッカーズ! マイ・ブラザーキヨシから話は聞いてると思うが、ここで今日から五日間、おめえらが俺様とガチでやり合えるように稽古つけてやるんで、ヨロシク!」


 ウィッスと軽いノリでと俺らに敬礼する。海に来たせいかマックス兄貴は異様にテンションが高い。


「俺様は、“最高”と書いてマックスだ。俺様のブートキャンプは信頼関係が何よりインポータントゥ! さあキヨシ以外は端っこからセルフプロモーション、キャモンッ!」


 その場で三回転ほど高速で回ってからパンパンを指差す。きもいくらいキレッキレの動きだ。


「オイラはパンパンクマ」


「ヘイ可愛いパンダメン! ファッキンサウンドがリアルネームなんてSOOOOOOOO クレイジーッ! はいっ、次のビッグブーブガール、GOGO!」


「あたしは、エーリカ。一応魔法使いかな」


「グウウウウウウッッド! マジカル・ガール、ファッキン強くなって俺様とコミットしてくれ!」


 マックス兄貴が、はい次と言いそうになるや否やルアーナの顔を覗き込む。


「このおっさん、何か前に見たようなインプレッション」


「アタシはルアーナ、ふふ……久しぶりねマックス。」


 その言葉にマックスは堅く固まる。そしてトラウマを思い出したようにガタガタと震え始めた。そして全ての感情を飲み込んだ後に、爆発する。


「オオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーマイガッ! おめえ、いつかのパーティで俺の弟ミックスのケツをファッキンデストロイしたゲイじゃねえか!」


「ふふ、あの時は若かったわ」


 ルアーナは不穏な笑みを浮かべてマックスの体を舐め回すように見ている。なんだこいつら知り合いだったのか。厳密には尻合いか。


 マックスは俺の方にカニ歩きで逃げてきて不満を漏らす。


「おいマイ・ブラザー。流石に聞いてないぜ。このゲイがお前らの師匠なのか? それなら俺様は教えることなんかねえぞ。」


 マックスは偉い真面目なテンションになって俺に耳打ちしてくる。


 すると全て筒抜けなのか、ルアーナは向こうから近づいてくるとマックスの耳元で囁いた。


「教える人が変わって掴むことがあるかもしれないし、マックスに任せるわ♡」


「ファッキンゲイ! お前がいるだけで俺様に勝ち目がないのに、なんでこれ以上塩送らなきゃいけねーんだ!」


「じゃ、アタシは試合に出ないわ」


 は? 出ない? なに言ってんだこのカマ野郎。おめえは俺らの中で一番強えんだぞ。俺の一生かかってんだぞ。


「おい、ルア……」


 俺が不満を口にする前にマックスの奇声で言葉が完全に遮られる。


「ファッキンオッケーーーッ! それならさっさと俺様の前からファックオフ! ゴーホーム、クレイジビースト!」


「じゃ、そういうことね。YOUたちもがんばりなさい。」


「アアアアアアアアッ、なんでそうなんねんっ!」


 俺の叫びも虚しく、ルアーナは颯爽と馬車に乗って帰ってしまった。


「オールオッケーッ。それじゃあキヨシ、パンパン、エーリカ。今日から五日間、俺様はお前らの教官だ。全てのクエスチョンは遠慮せずにカモンッ!」


 マックスは俺たちを砂浜に座らせる。ちらりとエーリカたんを見ると、今日は訓練ということで体操服っぽい感じで着こなしている。お胸が強調されてえっちだw


「まずは、トレーニングの前におめえらのギフトを教えろ。俺様のも後で教えてやるから出し惜しみはノープロブレムだ」


 ギフト?


「「「?」」」


 俺たち三人は同時に首をかしげる。


「まさかお前らギフトも知らねえなんてないよな? 能力って言ったら分かるか?」

 

 ドン引きしてるときマックスが普通の口調に戻るのが笑える。でも多分俺ら三人共ギフトとやらのことは知らない。


「オーマイガッ。まあこの街じゃギフト呼びをあんまりしないだけかもしれねえな」


 マックスは砂浜に木の棒で板書を始める。ホモなんかよりもよっぽど丁寧な指導で笑いそうになる。


「いいか、よく聞けよ。能力こと正式名称ギフト。こいつは神様からのプレゼンツ。ギフトには二種類ある。一つは突然ゴッドから貰えるやつ。これは転生者がみんなあるやつな。」


 多分、俺やパンパンの能力のことを言っているのだろう。この世界の転生者は漏れなく何らかの神様とのツテがあり、それを理由に転生してきている。


「んで二つ目は、何年も必死に打ち込んだ行為に魔力や気が乗り、ギフトとして開花するケース。こいつは、もともとこの世界に住んでたやつがギフトを貰う時に多い。」


 エーリカのものはおそらく二つ目に該当するんだろう。何年も投げ込みを続けた結果魔法投球になったのだ。


「おめえらのうちに転生者は?」


「俺とパンパンが転生組だ。エーリは違う。」


 エーリカたんはうんうんと頷いている。


「オーケーオーケー。じゃあ、お前らのギフトをティーチミー!」


 俺らは自分達のギフトをマックスに詳細に説明した。マックスはどこからともなくメモ帳を出して細々しい字で記録している。見た目に反してマメすぎるだろ! 最後にエーリカたんが語り終えると、マックスは砂の上に体の絵を描き始める。


「今は例外だがギフトの詳細を他人に言うのはおすすめしない。ノットリコメンデッドッ! なぜなら、ギフト持ち同士の戦いは情報戦ッ、対策なんていくらでも用意できる」


「ちなみに俺様はどんな波にでも乗れるギフトだ。流石に光は無理だけどな。これでお前らとはおあいこだぜ」


「でだ、こっからが実戦で重要」


 砂の上に書いた人体を左右で半分に分ける。


「はい俺様からのクエスチョン。ギフトは能力の性質そのものであって強弱ではねぇ。じゃあ、そいつは何によって決まると思う?」


「魔力?」


 エーリカたんが答える。マックスは人体の左右に【魔力】と【気】とを書き足した。


「半分正解。半分不正解。答えは、魔力と気だ。マジック&アウラ。アーユーオッケー?」


 うんうんうんと三人共頷く。


「つまりだ、お前らも冒険者ギルドで見たことがあるだろう、手をかざすと光るファッキンボール。あれは、魔力と気を足し算してその量を教えてくれるわけよ」


 俺をゴミ階級に追いやったあの腐れ球のことか。解説通りなら、うんこがたまってるときにやれば、異なった結果になったかもしれない。


「んじゃ、俺様からのクエスチョンその二。魔力と気の違いは何だ?」


「魔力は魔法使いが使うもの?」


 分かんねえし適当に答えてみる。


「間違いだファッキンスチューデント。一番の違いは、魔力が消費するものなのに対して、気は消費されずパワードスーツみたいに自分の精神もしくは肉体を強化もしくは変化させるってだけだ」


「つまり、気は洋服みたいなもので使ってても無くならないクマね」


「YES! だが、そいつの体調次第で絶対量が増減する。消費しないってとこがミソだ」


「だから気がビンビン出てるやつはボディもハートもSOOOOOOOストロンッグ。そんくらいの認識でいい。いい例がお前らのファッキンゲイティーチャーだな」


「じゃあさ、魔力はどーなん?」


 エーリカが質問する。するとマックスは魔力の横に縦長のゲージを描き始める。


「グウウウッドクエスチョンッ! 魔力には人それぞれ最大量がある。それがこのゲージ。こいつは休息や睡眠、食事で回復するが、使うと減ってしまう。だが気と大きく異なるのは、体以外のものにも作用できるということだ」


「じゃあ、アタシのボールが凄い破壊力になるのは魔力を使ってるからなんだね」


「イエスっ!気じゃボールは強化できねえ。まっ、お前の場合、投げる段階でおそらく気も使ってるがな」


「つまりだ」


 マックスは体の横に書いた魔力と気の両方から頭の上に向かう矢印を描き、そしてその先端にギフトと書いた。


「お前らのギフトは、魔力と気によって下支えされてるわけYO。人それぞれの魔力や気の絶対量は異なるし、それぞれの能力が必要とする両者の比率も違う」


「そして、そのバランスが完成されてる状態が、ギフト持ちとして最もストロング!」


 例えば、パンパンの能力だったらタケノコを生む、そしてタケノコを飛ばす、両方の過程が魔力依存だから、魔力を鍛えれば強くなれるわけだ。エーリカたんの場合、投げる動作そのものが気で強化されるし、球そのものの硬度や速度の強化に魔力を使うからバランスの良いトレーニングが必要になる。


「じゃあ俺は?」


 俺のギフトは、気と魔力の絶対量そのものが変わるものだ。便性変換は置いておくとして。


「たまに転生者で俺様の説明に合致しないギフトを持つものもいる。キヨシはまさしくそれだな。レアギフトってやつYO」


「基本的にギフトの性質としての強さは、そのリスクに依存する。キヨシはファッキンシットした後はゴミみたいに魔力も気も減るんだろォ?それなら納得だ」


「ひひひっ……、俺のギフトって結構すごいんだな」


 この世界に来てから、初めて能力について納得の行く説明を受けた気がする。俺らの意味不明なホモ師匠の一億倍わかりやすい。


 しっかし、俺の能力って特別だったんだなー、やっぱw


 ユニークスキルみたいなもんだよなーw 俺に似てるキャラ?


 黒の二刀流のあいつかなーw やっぱw


「ゴミ階級ギフトの癖になんか調子乗ってるクマ」

「さっきあたしの胸ガン見してたしほんときもいなー」


「うるせえ! うんこがたまってなかっただけやい!」


 最近、仲間の当たりの強さがどんどん高まってる気がするゾ。


「オオオオオオオーーーーケイッ! これで講義はフィニッシュ! 魔力や気を増やすコツはただ一つ、そいつらを使い続けることだ。どうだ、お前らそれぞれの課題が見えただろう?」


「おっけー!」

「ハイクマー!」


 パンパンとエーリカはやるべきことが見えてきたみたいだ。だが俺はどうすればいい? 今思うとルアーナのうんこを我慢する訓練はアホくさいが効果的ではあった。


「キヨシ、お前は便性変換をもっとリサーチしろ。お前のストロングポイントは、増えた魔力と気を両方とも便性変換で活用できることだ」


「イマイチ俺もよく分かってないんだよな」


「SOOOOOO、だからその研究をする。オッケー?」


「わかった。挑戦してみる」


 マックスの理屈は通っている。今後便性変換をより便利な形で使えたら必ず役に立つだろう。とりあえずこの五日間で色んな物を食って、便性変換を試しまくるかな。

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