第11話 きよし、観衆の目の前でコケにされる
「レディース、エンドゥ、ジェントルメン。今年最大のビッグイベントの幕開けが迫ってまいりまいた。楽しみにされていた方も多いはずです!」
バニーガールのコールにコロシアム風のスタジアムを埋める観衆が一気に沸き立つ。地方の野球場ほどの石造りのスタジアムだが、数千人の盛り上がりに床が小刻みに振動している。
「なんとぉ、今年の【ギルドバトル】はーーーーーっ、そう! ここ! ビッグ・シティ主催でございます。」
「「「オオオオオオオーーーーー!」」」
観客達の溢れる熱気は、空気、そして建物全体に波として控室にまで伝わってくる。控室の中は多種多様な冒険者で埋め尽くされていた。パンパンみたいな獣人族もいれば、俺と同じような人間冒険者も、全身武器だらけの改造人間みたいなヤツなんかもいる。
「今年は、例年よりも参加希望をするチームが多かったのでーーー、」
スタジアムの中心にいるバニーガールが大きくタメを作る。観客達がゴクリと息を呑む。
「今日から、予選大会がはじまりまーーーーーっす!」
「「「オオオオオオーーーーー!」」」
「にしてもすげえ盛り上がりだな。まだ開会式なのに」
俺は控室の中でパンパンに声をかける。このスタジアムに来るまでに街の中心部やら市場やらを通ったが、お祭りムードで大騒ぎだった。
予選でこれだけ観客が入ってるって本戦はどんだけ人が来るんだよ。この街以外からもこれ目当てに多くの人が来るんだろ? やばすぎだって。
「おいらちょっと緊張してきたクマ……」
なんか地面に座り込んでもじもじしている。この中で普段一番目立ち慣れてるのって、ホモ除いたらお前だからなパンパン。
「ま、死ぬわけじゃないし気楽にいこうや」
パンパンのもふもふした肩を叩く。
この大会のルールはこうだ。基本的にチーム戦でチームの人数は四人まで。腕に自身があれば一人でもパーティとして参加して、四人を相手しても良い。
制限時間はなし。武器、使い魔、だいたいの装備の持ち込みはOK。勝敗は相手全員の行動不能状態、もしくは降伏宣言。だたし相手を殺したり、身体的欠損を負わせるのは反則負けとなる。
例えば粘着液で捕縛したり、単純に失神させたり、睡眠魔法で眠らせたりといった戦闘継続が不可能な状態になった場合、審判によって行動不能と判定される。
まあ、殺されたり、腕をもがれたりはしないということだ。
「清は緊張してないクマ?」
「俺の能力はうんこ我慢すれば十分だからな。難しいこと考えなくてもそれなりに強いし」
「いーなー、あたし相手にちゃんと当てれるか心配になってきた」
エーリカたんも少し緊張した風の雰囲気でうろうろしている。ちなみに今日の服装はいつもの野球帽にセーラー服っぽい魔法衣装だ。大勢の前で戦うだけあって若干気合が入ってるのが可愛い。
「エーリが全力投球で頭部死球を放ったら相手の頭吹き飛んで死ぬから気をつけてね」
「それくらいわかってるって」
ほんとに分かってるのか心配だ。今日は、ホモがいないからパンパンと俺でエーリカたんのサポートをしなければならない。なんで
「予選レベルをアタシ抜きで勝てないようじゃ、本戦で怪我をするだけよ。だから今日はYOU達を観客席から見てるわ」
だそうで、今日は俺ら三人でなんとかする運びとなった。
そうこう話しているうちにバニーちゃんのアナウンスが鳴り響く。
「さぁさぁ、次は予選ブロックCの皆さんの入場ですよーー!」
「はぁ、呼ばれたクマ……」
「そんなに緊張しないでくれ、こっちにまで緊張が伝染る」
でも、いざ大勢の前で慣れもしてない戦闘をするって、良く考えるとやばいかもな。ああ、こんなにテンパってるのって、中学生の時の合唱コンクールに罰ゲームで独唱パート当てられた時レベルかもしれない。
「まず姿を現すのはーーーー。救った人は数知れず、断る依頼は一つとあらず。ビッグ・シティの縁の下の力持ちィ、白金階級冒険者:破壊棍のルアーナ率いぃるーーーー! アナルパンダぶりぶりーずぅうぅぅ! 」
「「「おおおおおおおーーーー!」」」
光魔法だろうか? えらい照明の効いたスタジアム中央部に俺たち三人は歩いていく。すでに呼ばれたチームの連中が並んでいる。とりあえず凄え盛り上がってるしてキメ顔で手を振っておこう。もしかしたら俺のファンになる女の子がいるかもしれないからな!
「あんれぇ、肝心の破壊棍のルアーナが見当たりませんッ! これはどういうことでしょうか! 残った三人のうち冒険者登録を済ませているのは二人だけ。金階級のパンパン選手と、ゴミ階級の御手洗選手ですねー。」
おいいい、余計な事言うな糞うさぎ! 誰も俺のファンにならねえじゃねえか!
「これはーどういうことでしょうか? 解説のレミラスさんお願いしますっ!」
「
「なるほどなるほど?」
「となると、鍵になるのは冒険者登録していないエーリカ選手デシタカ? アノ選手が鍵にナリマスネ。 ゴミ階級の選手は人数合わせというコトカト」
ぐぬぬぬ、言わせておけば……。後で驚かせてやる、覚えてろよな煮玉子っぽい解説者。
「ありがとうございます。レミラスさん。さてさて、次に入場するのはーーー! 新規気鋭の転生能力者コンビ、日本からきますたww でえええすぅぅっ!」
後ろを見てみると、背が高いデブと背が低いけど力が強そうなデブがスタジアムに入ってきている。背が低い方はバンダナを巻いていて、背が高い方は眼鏡だ。どっちもチェックシャツをズボンにINしていて、いかにもって感じだ。
「事前調査によるとぉ、このチームは二人だけみたいですねえ。どうやらコンビでお互いに強化魔法を掛け合う戦術を得意としているようです!」
見た感じ純粋に強そうではない。俺たち転生者はゆかりのある神から能力を譲り受けることが多い。オタクっぽいあいつらがどういう能力を持っているかが鍵だな。
「ぶひょひょ、兄者。初戦で戦うティームの女の子、見えますぁ? なかなかいいお乳してますねぇw」
「弟者よ、あの幼気な表情とそれにマッチしたツインテールが良いのですよ。分かりませんかねえ。乳房は二の次です。」
「そこだけは兄者と意見が合いませんなあ。ぶひょひょっ!」
ちなみに俺は弟者に同意だけど、なんかすげえ気持ち悪い奴らだ。さっさとボコシて汚物消毒だ。エーリカたんを汚物から守らなきゃいけない。
「なんかぞわぞわする」
彼女もただならぬ気持ち悪さを感じているようだった。
「そしてブロックC最後の入場チームはーーー! 我らがアイドル、イユ嬢を擁するぅぅぅぅぅっ! ビッグ・シティ守衛団第四部隊ぃぃぃぃぃッッ!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオぉぉぉぉぉぉ!」」」」」
それまでとは一線を画する声援が鳴り響く。どんだけ人気なんだそのアイドルとやらは。
すると、クリスタル色のシンプルだが美しい甲冑を身にまとった女騎士を筆頭に、三人の兵士が追従して入場する。
清楚な髪型だが流れるように繊細な金髪。二重まぶたで大きいが鋭さも残す凛々しい碧色の瞳。決意を姿に移したような引き締まった口元。背は高くもなく低くもない、それが少女らしさと大人の女性の丁度中間にあるような儚い美を象徴している。
たしかに、美しい以外の感想が浮かんでこない。エーリカたんは、たゆたゆのたわわで可愛い系だけど、この娘はただただ美しかった。
「あ、兄者。こ、これはいけませんぞ。はぁはぁ……」
「弟者よ、我慢です。今ことを
キモオタ二人組が何かを隠すように前かがみになっている。悔しいけど気持ちはわかるぜ。キモいから後でぼこすけどな。
「さて、イユ嬢こと、イユ・キッセンブルグ・スヴァイリエン・ギルフォードは、守衛団に入団して以来、一度も敗北したことがないとの噂です! レミラスさん、これはどういうことなんでしょう?」
名前すげえ長いな。舌を噛んでしまいそうだ。
「
「なるほどー? 単純に強いということではないと?」
「ワタシはそう考えてイマス」
攻略のきっかけねぇ。一度も刃を受けていないなら、一回捕まえてしまえればいいということなのかね? にしても無敗の騎士様と来たか。予選と言っても俺らついてねーな。
「なあパンパン。お前ってあれくらい綺麗な子でもおっぱい四つないと興奮しないの?」
空気をなごませるために聞いてみる。普通に気になったってのもあるけど。
「そういう問題じゃないクマ」
パンパンはジト目で言い返してくる。はいはい、からかって悪うございました。
「はーい、これでブロックCは三チーム全て出揃いましたッ。この中から総当たりで上位二チームのみが本戦に出場することが出来ますッ! 本命はやはりイユ嬢のチームですねぇ! それでは次にブロックDの入場いきますよーーーっ!」
「「「おおおおおーーー!」」」
俺らの相手は出揃った。昨日からうんこは貯めてきてるけど、果たして勝ち進めるのか心配になってきたな。
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