第10話 きよし、目覚める
鳥の声が聞こえる。さえずるような小さい声だ。ああ、うるせえなあ、もっと寝てたいのに。
長い夢を見ていた気がする。しかもくそったれな夢だ。全身ガッチガチに勃起したおっさんにぶん殴られる夢だよ。どこ反撃しても硬すぎてこっちの拳が壊れちまう。
あ……!
大切なことを思い出し、自分の股のあたりをまさぐる。
「ない! あの肛具がない!」
気づいてみれば便意もない。
「……俺、もしかしてマジで死んだ?」
いや、それはないと部屋を見渡して再確認する。小奇麗な洋室と白いシーツに包まれたベッド、仮に俺が死んだら黄色くて臭い雲が漂う
自分の心臓のあたりを触ってみると、普通に拍動している。丁度、ベッドの横の机に手鏡が置いてあったから自分の顔を見てみる。
「ぎゃあああああああ! なんじゃこりゃ!」
ボコボコに殴り合った後みたいに、顔が青あざだらけになっている。口を動かすとひりひり痛い。まぶたの上までひどくやられていて、意識すると目も開きにくい。まさかあの夢は現実だったのか?
「お、清。ようやく起きたクマね。すぐに皆を呼んで来るクマ」
何度も見たパンダ獣人がガチャリとドアの向こうから顔を出すと、すぐに引っ込んでいった。その後、しばらくしてパンパン、ルアーナ、エーリカの三人が部屋にぞろぞろと入ってくる。
「あら清、ずいぶん長く眠ってたわね」
「ルアーナ、お前いつにもまして酷い顔してんな」
よく見るとコイツの顔もえらいボコボコにされている。まさか全身勃起人間の正体はこいつだったのか? あああああ! そんなばっちい汚物に俺は触れてしまったかもしれないのか!
「ひゃだもう! YOUがアタシを滅茶苦茶にしたくせに……」
「きよし、無理やりはよくないぞー。無理矢理は」
エーリカたんは今日も可憐たわわグッドだ。でも、俺はガチホモを無理やり襲ったりしない、断じて、それはない!
「清、ここまでの経緯を覚えてるクマ?」
「いや、とんでもないスパッツ履かされてから二日間くらいまでは覚えてるけど、それ以降は曖昧だな」
「ま、あんだけ大暴れすれば当然クマね」
うんうんといった風にパンパンは一人(一匹?)で納得している。一体俺が何をしたというんだよ……。
「清は、肛具を履かされて三日目くらいから自我を喪失していったくま。それでも、便意と肛門括約筋の強制収縮に四日間耐え抜いたクマ」
「おお、俺やるじゃん」
「でも、その後が問題クマ。四日間耐え抜いた後、ルアーナを倒して肛具を外そうと爆進し始めたクマ。ま、残酷な天使のあれの暴走みたいな感じクマね」
お前パンダのくせになんでアニメに通じてるんだよ。ほんとに前世パンダ熊族なの君?
「まあ、暴走キヨシはえげつないくらい強いクマ。なぜなら極限までうんこが溜まって、そのうえ理性もないクマ。そんなわけで、ルアーナと戦ったクマ」
「俺もあいつも顔がボコボコなのはそういうわけか」
「そういう訳クマ。最終的に暴走キヨシはルアーナと相打ちになって、脱糞そして昏倒したクマ」
ホモの顔をちらっと見ると、なぜか、はぁーっと大きなため息をついて話し出す。
「ま、アタシもYOUを舐めてたわ。YOUの能力は特別よ。それは認めざるを得ないわ」
「しかし、なんで脱糞したのに俺は生きてるんだ?」
「あれは嘘よ」
「は?」
ナニイッテンだコイツ?
「脱糞すると死ぬなんて嘘に決まってるじゃない。清ったら純粋ねー」
パンパンの顔を見ると苦笑いしている。エーリカは口笛を吹いて素知らぬ顔だ。
「ま、気づいてるのはエーリだけだったみたいだけどね。だいたい皇帝が愛する男娼のガバガバ肛門を矯正するための肛具なのに、脱糞で死んだら本末転倒じゃない?」
あんなに死ぬ気で我慢して、正気まで失ったというのに?
うううううううう!
俺の、俺の苦しみは一体、うわあああああああああああ!
「パンパァン……」
パンパンのもふもふ毛皮に泣きつく。あのオカマ、絶対に許さない。許さない!
「まぁ、清は頑張ったクマ。よくやったクマ」
「ホモカス、あとで覚えとけよ」
もふもふの中からボコボコのホモを睨みつける。後で一泡吹かせてやる。
「ま、アタシもこんなボコボコにされるとは思ってなかったからお互い様ね」
「うるせえよ! だいたい俺も殴られてるんだから全然お互い様じゃねえよ!」
「いいじゃない。YOUとあたしは本気でヤり合った陰茎の交わりよ」
ううう、本気で気持ち悪い笑み浮かべてるんじゃねーよ。
「だいたい陰茎の交わりじゃなくて、
「あら、お互いに首を斬られても後悔しないような仲、と認めてくれるのね。嬉しいわー!」
「ああああああああああああああああああああああ!」
くそくそくそくそくそが!
このホモわざと間違えて俺をハメてきやがった。
ハメるのもツッコミ待ちも上手い……ッ、だめだ! のせられている! 確実にのせられている!
ホモに思考を支配されてはならぬ! 断じてならぬ!
「まぁまぁ、清落ち着くクマ」
「これで落ち着いていられるか馬鹿野郎」
「ギルドバトルはもう明日クマ。今はそれに備えて少しでも英気を養うクマ」
「はい? 明日?」
時間の流れが急に加速しているんですがこれはどういうことでしょう。流石に一週間近く寝込んでいたというわけでもないと思うんだが。
「きよしはさ。一週間以上寝てたんだぞー?」
エーリカたんが悪戯っぽい笑みを浮かべで俺のたんこぶをツンツンしてくる。ああ、事態は深刻だけど可愛いから許す。
「こらエーリ、清をあんまりからかわないの♡」
オイ、しゃしゃり出てくんなホモカス。二人の幸せな時間の邪魔をするな。
「清が寝ていたのはせいぜい二日クマ。それより、日程上の変更クマ。予想以上に参加チームが多いらしくて各都市、前倒しで予選会をやるみたいクマ。それが本戦の一週間前という事クマ」
「なるほどな、それが明日というわけか。それにしても特訓もまったく進んでないけど大丈夫なのか? あと参加申請とかもしてないし……」
思っている不安をそのまま口に出す。俺に至ってはうんこ我慢して正気失ってそのまま前日だからなあ。食い貯めもないし自信はない。
「それについてはご心配ありません。私めが書類に関しては滞りなく進めておりますゆえ」
突然、執事が横に現れて教えてくれる。こいつは、アキト……だったか? どんな身体能力してるんだコイツ。
「ま、YOU達なら予選くらい楽勝よ。清だって感じられるでしょ、YOUの肛門の力強さを」
試しにグッとケツに力を入れてみると、締りが格段に良くなっている気がする。それと同時に朦朧とした意識の中で掴みかけたコツをふと思い出す。
俺の力はとくに便性変換しなくても、身体能力として純粋に向上する。つまり便が貯まれば貯まるほど、肛門を締める力も強くなる道理だ。これを上手く利用すれば致死量寸前まで蓄便することが可能かもしれない。
「ふふ、YOUをアタシの最高傑作にしてあげるわっ!」
「俺を勝手にお前の作品にするな」
エーリカたんもホモとの特訓で少しは強くなったんだろうか? 前に見た時はとんでもないノーコン剛速球だったよな。あれを素でやったら観客に死人が出る。ちらっと見た感じ逞しくなってるとかないし。
「なーんだきよし。あたしが心配なのかー?」
エーリカたんは、クックックと不敵な笑みを浮かべる。たわわをたゆたゆさせるのはイイんだけど。俺は君が投獄されるんじゃないかと心配だ。
「エーリは何かコツをつかめたの?」
「こういうのは本番まで秘密にしてたほうが盛り上がるっしょ」
「まあ、確かに盛り上がりはすると思うよ」
そりゃ色んな意味で盛り上がるだろうよ。
「まーっ、楽しみにしとけよっ!」
ううう、不安だ。なんとか止める方法を考えておかないと。
「じゃ、明日ってことは対戦相手とかもう決まってるわけ?」
ふと気になって聞いてみる。執事のアキトがすかさずパンパンに羊皮紙のようなものを渡す。どうやらそれが大会概要のようだ。
「えーっと、明日の相手は、[ビッグ・シティ守衛団第四部隊]と[日本から来ますたww]とかいうチームクマね。ほら清も読むクマ」
パンパンから渡されて紙面に目を通してみると、ビッグ・シティ予選Cブロック[ビッグ・シティ守衛団第四部隊]と[日本から来ますたww][アナルパンダぶりぶりーず!]と書いてある。
「……。このふざけたチーム名は?」
どう考えてもホモの仕業だ。こいつどんだけ俺たちに恥を上塗りすれば気が済むんだ。全力で睨みつける。
「お前だろ、なんだよアナルパンダって! 淫乱テディベアみたいな感じになってるじゃねえか! ふざけんなよ!」
「ヤダ、アタシじゃないわよ」
しらばっくれてるんじゃねえぞ、ホモカス。なあ、エーリカたん! と同意を得ようとしたところで、彼女がうつむいて震えていることに気がつく。
「……みんなの特徴が入ったチーム名にしよう。ルアーナは言いにくいからアナルにしたら語感がいいと思って……。それで、“やきう”チームみたいにしたらカッコいいとかなって……。ううっ……きよし、嫌だった?」
んなーーーーーー!
エーリカたんが今にも泣きそうな顔で目をうるうるさせている。
いやおかしいでしょ、君のネーミングセンスおかしいでしょ! 意味がわかってないにしても、なんでよりによってアナルパンダなんだよ。
しかも俺要素ってぶりぶりかよ、せめてキヨッシャーズとかトイレッツとかいろいろあるやろ! なんでぶりぶりなんだよ!
しかし、突っ込めない、突っ込んではいけない。いたいけな少女の気持ちを踏みにじってはいけない。
ああああああ! めんどくさすぎる! どうしてこうなった! どうしてこうなった!
「ま、いいんじゃないかな……」
「清、顔が思いっきり引きつってるクマ」
あとで俺がエーリカたんのご機嫌をとりまくったのは言うまでもない話だ。
◇
暗闇の部屋の中で二人の肥えた男達が会話をする。男たちの目の前には燦然と輝くモニターがあり数多の数列や文字列が留まることなく流れ続けている。
「デュフフww アナルパンダぶりぶりーずとは、随分ふざけたチーム名をしていますねぇ、兄者」
「クフフ、私たちのデータ戦術を目の前にしてどんな顔を見せてくれるか楽しみですねえ、弟者」
頭にバンダナを巻いた方の男が、手元のポテチをぐわしゃと掴み取ると、そのすべてを一気に口の中へと運ぶ。
「んー、テスラお婆様のお店のポテチは堪りませんねぇ。兄者も少しどうですかぁ? フォカヌポォ!」
「それより弟者。どうやら[ビッグ・シティ守衛団第四部隊]にも[アナルパンダぶりぶりーず!]にも美少女がいるらしいですよ。」
「ほぉ、美少女ですか。わたくし、これでもジャンルには結構こだわりがありますぞww」
ぶひょひょと男は笑う。
「私のスーパー頭脳による事前調査によれば、[ビッグ・シティ守衛団第四部隊]には、この街一番の美少女騎士が。[アナルパンダぶりぶりーず!]にはロリ系巨乳スポーツ少女がいるようですねぇ」
「ほーーw それはたまりませんなぁ。リアルにくっ殺せと、リンパの流れを良くするマッサージが得意な体育教師を演じられるなんて、わたくし、昂ぶってきましたぞ! ぶひょひょひょっ!」
「ま、私達の勝利は計算済みです。任せなさい弟者よ。上限人数4人まで二人分の空きがあるので、2チームから美少女を引き抜いてもいいかもしれませんねえ」
男は、フンフンフンッと鼻息を荒くし興奮する。その巨体から湯気が立ち上る。
「ほほぉー。わたくし、下半身がもりもりしてきましたよぉ! 異世界から二人で転生してきた甲斐がありましたなあ!」
「フフッ そうですね。私も少々陰茎の血の巡りが良くなってきました」
丁寧な口調の方の男が眼鏡をくいっと持ち上げる。
「なんにせよ、この予選を勝ち抜くのは、我ら[日本から来ますたww]なのです!」
「さっすが、兄者w たのみますぞ~!w」
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