第4話 きよし、覚醒(?)してスライムを倒す
「能力? 今の俺の状況見て言ってんのかくそじじい!」
俺の服は、スライムの消化液でピラピラになってきている。肌も痛いような熱いような感じがしてヤバさがビンビンだ。だいたいこの爺のことだから、どうしようもない能力だろう。現に冒険者ギルドでの判定でもゴミ扱いされたし……。
「まぁまぁ、怒るな清よ。お前の能力はすごいぞ。んー、わしも優しいからぁ。どうしても聞きたいなら教えてやってもいいんだぞ?」
ビキビキビキ、どこまで上から目線なんだこいつ。腹が立ちすぎて脳の血管がブチ切れそうだ。
「ふん、知りたくもないね。むしろ、俺が死んだらうんこ界に戻ってお前をボコしてやるから、首洗って待ってろよ」
「ほう、清。うんこ界でワシと暮らす気になったのか。ほっほっほ!」
なんで喜んでるんだよ。ていうか、孫の死に目でこの余裕、俺の爺ちゃんって相当やべーやつだわ、これ。
「うんこ界に来たら、永久に死ねない体でワシとうんこ掃除をずーーーっとできるぞー!」
…………。
それはまずい。断固として避けなければならない事案だ。うんこ掃除だけにクソみたいな末路だ。ってダジャレを言ってる場合じゃねえ。
くっ、この爺に屈するのは本当にムカつくけど。今は一時の苦しみを乗り越え、ここから脱出する方法を考えないと。輪廻転生もできない永遠のうんこ掃除だけは嫌だ……。
くーーーっ、今になって分かったよ。強靭なオークに囚われた女騎士の気持ち。くっ殺せ! ってやつ!
まぁ、俺の場合死んだら永遠の便所掃除なんだけどね。殺されちゃだめなんだけどね。気分は一緒だ。
「くそったれ。はやく教えてくれ! じじい!」
「それは人に物を頼む態度か? 清?」
こいつ、こいつ、こいつ! くそくそくそくそくそがあああ!
「あああああああああああああああああああああああああああああ! よろしくおねがいしますうううううううううううううううう! おじいさまああああ?」
これでいいんだろおおお!
「まあ、最初から教えるつもりだったけどね」
「……。いや早く言えよ」
怒りを通り越して逆に冷静になってくる。早く教えてくれ。いま現在進行系で俺消化されてるんだわ。
「清よ、お前の能力は、うんこが貯まればたまるほど強くなる能力じゃ」
「は?」
こいつ今なんて言った?
「うんこが貯まればたまるほど強くなる能力じゃ」
「……」
どう考えても弱い。終わった。さよなら異世界、さよなら友よ、パンパンよ。短い間だったけどありがとう。お前がいいヤツだっていうのは分かったよ。俺とスライムを戦わせたのは生涯憎むし、お前が死んだとき絶対にうんこ界に道連れにしてやるけどな。ふふ、ふふふふふ……。
「ちなみに、うんこの性質で特殊能力が付加されるぞ。どうじゃ、凄いだろう」
「特殊能力?」
この状況をどうにかできるものなら幸いだが、具体的にはどういうことなんだろう。
「ん~、わしも詳しくは分からないんだよね。んじゃ、ワシは一級神会議があるんで、またな清よ」
「おっ、おい! 分からないって」
爺の声が聞こえなくなる。スライムの胃袋の中でまた一人になってしまう。
「あああああああ、ほんまつっかえねえ!」
「んだよ、会議って。だいたいなんでうんこの神が一級神なんだよ。おかしいだろ」
それより、この状況から抜け出さないことには、俺の未来はない。思考しろ、思考しろ俺。じじいは、うんこの性質で特殊能力がとか言っていた。その意味を考えろ。
………
……
…。
わかるわけねえよ!
意味不明だよ!
だいたいうんこの性質ってなんだよ。下痢か便秘か快便くらいしかねーじゃねーか。たかだか3種類でどうしろって言うんだよ。
あああああ、うんこ掃除は嫌だあああああああああああ! とその時、ズキンと俺の下腹部が痛む。
!
やばい、これは便意だ。当然だ、あんだけタケノコだけを食べまくったんだ。うんこしたくなって当たり前だ。しかも、これは下痢だ。
ズキン……ズキン
この腹痛の波、このビッグウェーブ……絶対に下痢だ。
このとき、俺は爺の言葉を思い出す。うんこが貯まれば貯まるほど強くなる能力。これは、好期なのではないか、と。
ギュッと、拳を握りしめる。ズキン……ズキンと押し寄せる腹痛の波。
このビッグウェーブ、乗るしかない。
このとき俺は必死だった。永遠のうんこ掃除だけは避けたい一心だった。助かりたいッ!その、純粋な願望が俺の本能を呼び覚ましたか、俺は叫んでいた。
「「
「「
俺の全身が新緑色に輝き、若竹のような生命力に満ち溢れるのを感じる。明らかに今まで俺じゃない。これは、若竹の力。タケノコの生命力ッ!
「これならやれるかもしれない!」
俺の数少ない自然科学の知識を振り絞る。中学校の時の理科は3だったからそんなに得意というわけでもないけど、科学の本を見るのは好きだった。
たしかそこに書いてあったのは、竹という植物は日本でこそ普通だが諸外国では侵略的外来種となっていること。それは即ち、圧倒的な生命力と栄養吸収力、そして成長速度!
「お前を全て喰らってやるッ!」
俺は、スライムの胃壁に新緑に輝く拳を突き刺す。すると拳の皮膚から植物の根のようなものがどんどん広がっていき、胃壁全体を覆い尽くす。
「喰らい尽くせ、
ゴオオオオオオオオ、力の波動が竹の根から周囲に一気に広がり、強烈な勢いでスライムの体から水分を奪ってゆく。巨大スライムの力が拳を通じて俺の体に流れ込み、お腹の中に溜まっていくのを感じる。
ズキンッ ズキンッ
「くッ?」
こんなときにビッグウェーブの第二波が! 俺の能力はうんこの量に依存する、すなわちここで“出したら“終わる!
「間に合えッ! おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
吸収速度を一気に上げる、スライムの体が全体的に縮まり外の光が透けて見えるようになってくる。
ズキンッ ズキンッズキンッ ズキンッ
波の間隔はどんどん短くなる。俺の肛門がヒクヒクと収縮する。ここで、ここで決壊させるわけにはいかないッ!
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
スライムがほぼ完全に乾燥し尽くす。そして俺は拳を天に向かって突き上げる。バリーーーンと乾燥したスライムの体が粉々に砕け散り、新鮮な外の風が俺の頬を撫でる。陽の光が眩しい。俺はやったんだ!
「すごいよ清ッ!」
パンパンが俺の姿を見て駆け寄ってくる。だが、だめだ! こっちに来てはならない!
「来るなッ!」
俺はパンパンを静止する。来てはならない。今だけは俺に近づいてはならない。なぜならそれは、
ズキンッ ズキンッズキンッ ズキンッズキンッ ズキンッズキンッ ズキンッ
押し寄せるビッグウェーブ。俺の城壁を突き破らんと波状攻撃を繰り返す。
「ああああああああああああああああああああああ?」
「清、その力その体はいったいどういう事クマ!」
俺の体から立ち上る尋常ならざる気迫に圧倒され、パンパンは思わず立ち止まる。そうだ、それでいい。お前だけは巻き込みたくないッ!
そして、その時は来た――。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!! ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )
俺は勝利の雄叫びを、そしてこの世界ではじめての絶叫脱糞を、大切な相棒の前で、耐えきることができなかった。
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