第3話 きよし、スライムに飲まれる

 ああ、じいちゃん、俺、うんこ界に戻らなきゃかも。巨大なスライムの胃袋の中で俺は人生を振り返っていた。


 すべての元凶は、今朝あのパンダ野郎の誘いだ。


「きよし、よく聞くクマ」


 パンパンが宿のベッドに引きこもっている俺の体を揺さぶる。事件から一日、俺はもう再起不能だ。死にたい。一歩も動きたくない。もうやだ。


「これを見るクマ」


 ババーンと何か絵の描いてある紙を見せつけてくる。紙にはスライム?だろうかの絵が描かれている。


「なんだこれ? 塗り絵か?」


 興味ないわ。寝るわ。そしてこのまま朽ち果てるわと、もう一回布団を被り直す。


「違うクマ。これは依頼クマ。清も一緒に討伐するクマ!」


「それは、うんこ階級の俺でも受けられんの?」


 ちょっと気になったからとりあえず聞いてみる。


「だめクマ」


「寝る」


 即答。布団に引きこもる。この糞パンダ野郎、俺のことを馬鹿にしにきたな畜生。ちくしょう……!


「違うクマ。おいらが受けてきたから、一緒にやって、成功したら清の報酬の半分を上げるクマ。パンダ熊族は約束を守るクマ」


「……。そんなに俺が必要なのか」


「必要クマ」


 ――こいつ、まじでいいヤツすぎだろ!


「しょうがねえなあ! うんこ等級の俺が一肌ぬいでやるよっ! っしゃおら!」


 空元気を出してベッドから飛び降りる。さぁてこの俺様に倒されてえ魔物っちゅうのはどこのどいつだ。


「さすが清クマ~。頼りになるクマ!」


………………

…………

……。


 街から少し離れた小高い丘の上。牧草に覆われた大地には数多くのスライムがたむろしている。


「タケバースト!」


 パンパンの手のひらから大量のたけのこが射出される。そのタケノコは、青くてめちゃめちゃでかい眼の前のスライムに向かってまっすぐ飛翔する。


「おお、すげえ勢い! これは効くぞ!」


 だが、スライムが変形し大きな口を作ると、そのまま全部のタケノコを食べらられてしまう。そして、なんかますます巨大化してる気がする。


「だめじゃん? お前の能力だめじゃん?」


 パンパンに全力でダメ出しする。自分のことはいい。こいつが金階級なのムカつくからしょうがないね。


「くっ、おいらのタケノコが美味しすぎるからクマ」


「ええ、そういう問題なの?」


 たしかにこいつのタケノコはすげえうまい。昨日の夜は、お金もなくて食べるものもなかったから、パンパンが出したタケノコをいっぱい食べた。それが硬すぎず柔らかすぎずめっちゃうまかったんだこれ。


「そういう問題クマ。そこだけが譲れないクマ」


 そうこう無駄話をしている間にも、クソデカスライムはどんどんこちらに迫りくる。うねうねと大きな口を開けて俺らのことも取り込もうととしてるみたいだった。


「清。きみの本当の力を見せてみるクマ。一級神の力をここで発揮するクマ」


 パンパンが発破をかけてくれるが、正直俺自身何が出来るかもわからねえ。


「よし、とりあえず殴ってみるわ」


「よしクマ!」


「うおおおおおおおおおおお!」


 俺はクソデカスライムに向かって素手で殴りかかる。この神の拳、喰らいやがれ!


 大いなる便神の怒りビッグベンインパクト


 そして俺は、スライムに捕食された。


………………

…………

……。


 はあ、これはやべえって。体動かないもん。真っ暗で何も見えやしねえ。 完全にスライムの中に取り込まれていた。体は溶けたりしていないが、これも時間の問題だろう。あたりにはさっきパンパンが飛ばしまくったタケノコが一緒になって入っている。


「くそ、せっかくの転生チャンス。こんなところで終わるとかないだろ」


 うんこ界に帰ったらぜったい糞爺をぶっ殺すと決意を固める。しかしこのまま、体が溶けて死ぬのはどう考えても苦しそうだ。


「せや! タケノコ死ぬほど食ったらねむくなるはず! そしたら、安らかに逝ける!」


 俺、天才だわ。そして爺殺す。と、俺はあたりのタケノコを貪り食いはじめる。流石に戦闘用のタケノコなだけあって少し味にエグミがあるが、生で食べられるくらいだからかなり美味しい部類だろう。


 六本目のタケノコに差し掛かろうとした所、何やら天から声が聞こえた気がする。ああ、命尽きようというのか、早かったなと穏やかな気分だ。


「あー、きよし、ういっす。異世界生活はどうじゃ?」


 ……。


「殺す」


 そいつは爺の声だった。今さらどの面下げて現れてんじゃボケ。絶対に殺す。


「まてまて、お前に能力のことを話すのを忘れとったんじゃ。それを今伝えようとな?」

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