第1206話相歓びし歌二首、越中守大伴宿祢家持の作

相歓びし歌二首、越中守大伴宿祢家持の作


庭に降る 雪は千重敷く 然のみに 思ひて君を 我が待たなくに

                       (巻17-3960)

白波の 寄する磯廻を 漕ぐ船の 梶取る間なく 思ほえし君

                       (巻17-3961)

右は、天平十八年八月を以って、掾大伴宿祢池主、大帳使に付きて京師に赴き向かひて、同じ年の十一月本任に還り到りき、よりて、詩酒の宴を設け弾糸飲楽しき。この日、白雪忽ちに降り、地に積むこと尺余なりき。その時また、漁夫の船、海に入り、波に浮かぶ。ここに守大伴宿祢家持、情を二眺に寄せて、聊かに所心を裁りしものなり。

※大帳使:大帳を毎年八月末日までに、太政官(主税寮)に提出する使者。「大帳」は庸調を徴収するために諸国で作成する戸籍台帳、尚、地方国庁は例年六月末日時点の実態を記す。



相ともに、歓び合った歌二首。越中守大伴宿祢家持の作。


庭に降り積もった雪は、千重に降り敷いている。しかし、この程度ではないのだ。私がお前を待ち焦がれていた思いとなると。


白波が途切れなく寄せて来る磯のあたりを漕いでいる船も手を休めることはないけてど、私も気持ちを落ち着けることなく、お前を待ち続けていたのです。


右は、天平十八年八月に掾大伴宿祢池主が大帳使の役について、都まで赴き、同年十一月に、元の任地に戻って来た。そこで詩酒の宴会を開き、音楽を奏で、酒を楽しんだ。偶然ではあるが、この日は雪が降り、一尺余りも地に積もった。また、たまたま漁師の船が海に繰り出し、波間に浮かんでいた。そこで、越中守大伴宿祢家持は、雪と海の情景を見て、感じた心を述べたものである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る