第1196話平群氏郎女の越中守大伴宿祢家持に贈りし歌十二首(3)

里近く 君がなりなば 恋ひめやと もとな思ひし 我そ悔しき

                     (巻17-3939)

万代に 心は解けて 我が背子が うみし手見つつ 忍びかねつも

                     (巻17-3940)

うぐひすの 鳴くくら谷に うちはめて 焼けは死ぬ」とも 君をし待たむ

                     (巻17-3941)

松の花 花数にしも 我が背子が 思へらなくに もとな咲きつつ

                     (巻17-3942)


私の実家の近く(久邇京や難波京)で、貴方が日々を送っておられるならば、恋焦がれることはないと思っていたのが、今となっては悔しくてなりません。


いつまでも、と心が通い合い、愛しい貴方が握ってくれた私の手を見ています。恋しさに耐えかねています。


鶯の鳴く、薄暗い谷で私が焼け死んでしまうとしても、私は貴方を、ひたすらお待ちしています。


(私は)ただじっと待つだけの松の花なのです。貴方から見れば、花の数にも思われないでしょうが、どうしようもなく、咲き続けるばかりなのです。



遠く越中国にいる「我が背子家持」への、恋の苦悶の歌。

離れてしまうなど思いもしなかった自分を悔しく思い、握ってもらった手を眺め、谷で焼け死んでも待ちますと、ほぼ狂気に、最後は「花の数:女の数」にも入れてもらっていないのでは、と自嘲のように嘆く。


現代の歌謡曲では、これほどまでに、恋の苦悶を歌うだろうか。

まさに、万葉恋歌と言える歌群と思う。

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