第1079話対馬の島の浅茅の浦にて
対馬の島の浅茅の浦に到りて船泊りせし時に、順風を得ずして経停すること五箇日。ここに物華を瞻望(せんぼう)し、各慟めるこころを陳べて作りし歌三首
※対馬の島の浅茅の浦:長崎県対馬。浅茅の浦は、その中央部。
百船の 泊つる対馬の 浅茅山 しぐれの雨に もみたひにけり
(巻15-3697)
天離る 雛にも月は 照れれども 妹ぞ遠くは 別れ来にける
(巻15-3698)
秋されば 置く露霜に あへずして 都の山は 色づきぬらむ
(巻15-3699)
数多くの船が泊る「津」と言う対馬の浅茅山は、おりからの時雨の雨で、紅葉しております。
奈良の都から遠く離れたこの鄙びた地にも、月は美しく照るのですが、やはり愛しい妻とは、遠く別れ来てしまいました。
秋も深まり、おりて来る露霜に耐えきれずに、都の山は、美しい紅葉を見せていることでしょう。
対馬で美しい紅葉を見ても、月が美しく照らしても、思うのは都に残して来た愛しい妻や、都の紅葉である。
もはや、旅の楽しさなどまるでない、実にかわいそうな一行である。
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