第973話見わたしに 妹らは立たし この方に 我は立ちて

見わたしに 妹らは立たし この方に 我は立ちて

思ふそら 安けなくに 嘆くそら 安けなくに

さ丹塗りの 小舟もがも 玉巻きの 小楫もがも

漕ぎ渡りつつも 相言ふ妻を

                (巻13-3299)


見わたすと、向こう岸に愛しい人は立っています。

こちら側には、私は立っているのです。

愛しい人を想う心は不安に満ちて、

逢えない嘆きで苦しくてなりません。

赤く塗った小舟が欲しいのです。

玉で巻いた楫が欲しいのです。

それらがあれば、漕いで渡って、愛する妻と逢瀬ができるのに。



男と女の間には、容易に逢えない事情(隔てる川:親の反対かもしれない)がある。

「さ丹塗りの小舟」「玉巻きの小楫」は、山上憶良の七夕歌(巻8-1520)から。

どちらも高価な物を願望しているが、男は手に入れられず、ほぼ諦め状態らしい。

女の親としては、認められないほどの貧乏男だろう。

酷な表現をすれば、「高嶺の花」に身分違いの恋をした、甲斐性の無い男の歌である。




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