第960話やすみしし わご大君 高照らす

やすみしし わご大君 高照らす 日の御子の

きこしおす 御食つ国 神風の 伊勢の国は

国見ればしも 山見れば 高く貴し 川見れば さやけく清し

水門なす 海もゆたけし 見わたしの 島も名高し 

ここをしも まぐはしみかも かけまくも あやに畏き

山辺の 五十師の原に うちひさす 大宮仕え

朝日なす まぐはしも 夕日なす うらぐはしも 

春山の しなひ栄えて 秋山の 色なつかしき

ももしきの 大宮人は 日月とともに 万代にもが

                      (巻13-3234)

反歌

山辺の 五十師の御井は おのづから 成れる錦を 張れる山かも

                      (巻13-3235)


天下をあまねく治めらたまう我らの大君、高々と照らしたまう日の御子が、御食つ国として治めたまう、神風の吹く伊勢の国。

この伊勢の国を見ると、山を見れば高く貴く、川を見れば澄んで清らかです。

河口のごとく開けた海は広々として、遥かに見える島々も名を高く聞いております。

我らの大君は、この場所こそ素晴らしいと思われたのか、言葉に出すのも畏れ多い山辺の、五十師の原に大宮を営まれました。

そして、それはそれは、朝日にはまぶしく、夕日には心を慰められるのです。

また、萌え立つ春山のように生気に満ちて、秋山のように美しく心を惹かれます。

大宮人は、天地、月日と共に、万代にも変わらずに素晴らしくあって欲しいと、心より願うのです。


山辺の五十師の御井は、自然に織り上がった錦を張る山のように、素晴らしいのです。


かなり古風な、現代語訳が難しい歌。

諸々の解説書でも、相当な差異がある。

内容としては、持統天皇の伊勢行幸(692年)の時の歌とされている。

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