第866話あしひきの 山田守る翁が 置く鹿火の

あしひきの 山田守る翁が 置く鹿火の 下焦がれのみ 我が恋ひ居らく

                          (巻11-2649)

※あしひきの:山にかかる枕詞。

※山田:人里離れた所に置かれた田。尚、居住地に近い所の田は「門田」、「垣内田」。

※鹿火:田畑を荒らす鹿や猪を追うために焚く火。燃え立つまでは内面でくすぶる。諸解説書では「蚊火」としているものもある。その場合は蚊遣火。ただ、生活圏ではない「山田」なので、蚊を追い払うというよりは鹿や猪を追い払う「鹿火」のほうが、納得できる。

※下焦がれ:「下」は内心の意味。心のなかでだけ、じりじりと思い焦がれ、の意味。


山田の番をする翁が焚く鹿火のように、胸のなかばかりで、私はじりじりと恋焦がれているのです。


なかなか相手とは燃え上がらない、自分の心の中だけの恋。

山田は、縁遠い自分への自嘲で、鹿火は、恋しい人を追い払うような、監視の火(母親とか世間)を意味するのかもしれない。

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