第605話石川大夫の選任して京に上りし時に、

石川大夫の選任して京に上りし時に、播磨娘子の贈りし歌二首


絶等寸(たゆらき)の 山の峰の上の 桜花 咲かむ春へは 君を偲はむ

                           (巻9-1776)

君なくは なぞ身装はむ くしげなる 黄楊の小櫛を 取らむとも思はず

                           (巻9-1777)


石川大夫は、霊亀元年(715)五月に播磨守になった石川朝臣君子。

帰京は養老四年(720)十月なので、その時の作、

絶等寸(たゆらき)の山は未詳。おそらく播磨の山。

播磨娘子は、石川君子が播磨で親しくなった女性。遊行女婦説もある。


絶等寸(たゆらき)の山峰あたりの咲く春には、いつもあなたを偲ぶと思います。


あなたがいなくなってしまえば、どうして化粧などするでしょうか。

櫛笥の中の黄楊の小櫛さえ、手に取る気力がありません。


かつては一緒に愛でた桜を、もう二度と一緒に見られない寂しさを先に詠い、次の歌では、あなたなしでは化粧もしませんと、強い落胆を詠う。


二つの歌は、現代人でも、いやどんな時代でも理解できる歌。

特に二首目は、本音そのものを詠っている。


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