第574話斉明天皇紀伊国行幸時の二首
岡本宮に宇御めたまひし天皇の、紀伊国に幸したまひし時の歌二首
妹がため 我玉拾ふ 沖辺なる 玉寄せ持ち来 沖つ白波
(巻9-1665)
朝霧に 濡れにし衣 干さずして ひとりか君が 山道越ゆらむ
(巻9-1666)
右の二首は、作者未だ詳らかならず。
※岡本宮:奈良県高市郡明日香村にあった欽明天皇および斉明天皇の皇居。
※天皇の、紀伊国に幸したまひし時:第三十七代斉明天皇の紀伊国行幸時。
斉明四年(658)十月十五日から翌五年正月三日まで紀伊牟婁の湯に行幸。
尚、この行幸中、有馬皇子が捕らえられ、藤白坂で殺されている。
家で待つ愛しい人のために、私は玉を拾います。
沖の白波は、沖深くに沈む白玉を、この海辺まで運んで欲しいのです。
朝霧にすっかり濡れてしまった衣を干すこともなく、あの人は、一人だけで険しい山道を超えるのでしょうか。
一首目は、家で待つ妻を思いながらも、旅先の素晴らしい産物である白玉も褒める、典型的な旅行の歌。
二首目は、家で待つ妻の心を、行幸中の宴席において、その中の同行者の誰かが詠んだものと思われる。
ただ、難しいのは団体旅行の中で「ひとりか君が 山道越ゆらむ」と詠まれていること。
有馬皇子の事件がなければ、単なる宴会歌になるけれど、その君が有馬皇子としない確証もない。
作者も未詳なので、有馬皇子に実は同情していた人の作と考えられなくもない。
結論を出すべきか、出さざるべきか、古来人々を悩ませて来た二首である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます