第573話夕されば 小倉の山に 伏す鹿し

泊瀬朝倉宮に宇御めたまひし大泊瀬幼武天皇の御製の歌一首


夕されば 小倉の山に 伏す鹿し 今夜は鳴かず 寝にけらしも

                       (巻9-1664)

右は、或る本にいわく「岡本天皇の御製なり」といふ。正指を審らかにせず。

因りて以て累ねて載す。


※泊瀬朝倉宮:奈良県桜井市朝倉付近の雄略天皇の宮。

※大泊瀬幼武天皇:雄略天皇。

※岡本天皇:舒明天皇。


泊瀬朝倉宮の大泊瀬幼武天皇(雄略天皇)の御歌一首

夕方になると小倉の山に伏す鹿は、今夜は鳴かない。すでに眠ってしまったのだろうか。

右はある本には、「岡本天皇の御歌である」という。それが正しいか否か不明なので、重ねて載せておく。


万葉集の冒頭にも載せられた雄略天皇の歌。

しかし、よく似た舒明天皇の歌が巻8-1511にある、

夕されば 小倉の山に 鳴く鹿は 今夜は鳴かず 寝にけらしも


その違いは「伏す鹿は」と「鳴く鹿は」との違いだけ。

ただ、伏す鹿が鳴かないのは、姿を隠して狩人に狙われないため。

狩りができない残念さを詠ったのか、あるいは鹿に憐憫の情を示したのか。

鳴く鹿よりも、鹿の命に切迫するような印象がある。


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