第562話長屋王邸での太上天皇と天皇の御製の歌
太上天皇の御製の歌一首
はだすすき 尾花逆葺き 黒木もち 造れる室は 万代までに
(巻8-1637)
※太上天皇:元正天皇。文武天皇の姉。神亀元年(724)、文武の子、聖武天皇に譲位した。
※はだすすき:皮に包まれて、まだ穂が出ないすすき。
※尾花逆葺き:屋根を葺くには草の根を下に向けるのが習い。ここは尾花を逆に向けて葺いたので、このように表現。
※黒木:樹皮がついたままの木。それを用いたのは、風流のはからい。
天皇の御製の歌一首
あおによし 奈良の山なる 黒木もち 造れる室は 座せども飽かぬかも
(巻8-1638)
※天皇:聖武天皇
右は、聞くならく、左大臣長屋王に佐保の宅に御在して肆宴したまひし時の御製なり。
はだすすきや、尾花を逆に葺いて、黒木を使って造った新しい室は、いつまでも栄えることでしょう。
奈良の山の黒木を使って造った新しい室は、いつまでいても、飽きることはない。
元正天皇に位を譲られ、聖武天皇は神亀元年(724)二月四日に即位。
長屋王は、同日、人民最高位の左大臣に任命された。
この歌は、この後、佐保楼の新室に、上皇と天皇を迎えて宴を行った時の、御製の歌。
そして、この宴の五年後、長屋王は聖武天皇の遣わした軍勢に囲まれ、非業の死を遂げる。
「万代までに」と詠んだ上皇(元正)は、ご健在。
長屋王の滅亡を、どんな気持ちで見ていたのか。
しかし、長屋王を追い詰めた主犯の藤原四兄弟は相次いで、疫病で命を落とす。
また、その命令を下した聖武天皇には男子が生まれず、血統は断絶。
そして天智天皇系の皇族が、やがて即位することになる(現皇室まで続く)。
そんな「その後のこと」を思い、この御製の二首を読むと、また複雑な思いが起こってくる。
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