第534話故郷の豊浦寺の尼の私房に宴せし歌三首
故郷の豊浦寺の尼の私房に宴せし歌三首
※豊浦寺:明日香村甘樫丘北嶺にあった寺。推古天皇の豊浦宮の址に建てられた日本最古の尼寺。私房は、僧侶や尼が住む私室。
明日香川 行き廻る岡の 秋萩は 今日降る雨に 散りか過ぎなむ
(巻8-1557)
右の一首は、丹比真人国人。
※丹比真人国人:天平八年(736)従五位下。民部少輔、摂津大夫、遠江守を歴任。
天平宝字元年(757)、橘奈良麻呂の叛に連座し伊豆に流罪。
鶉鳴く 古りにし里の 秋萩を 思ふ人どち 相見つるかも
(巻8-1558)
秋萩は 盛り過ぐるを いたづらに かざしに挿さず 帰りなむとや
(巻8-1559)
右の二首は沙弥尼等。
※鶉鳴く:古りにし里にかかる枕詞。
※沙弥尼:仏門に入ったばかりの尼僧。俗人とほぼ変わらない生活をしていたので、宴を設けることができた。
明日香川が巡り流れる岡の秋萩は、今日降っている雨で、全て散ってしまうのではないでしょうか。
古びた里に咲く萩を、気心が通じた者同士で、眺めることができました。
萩の花は盛りを過ぎてしまうというのに、なにもせず、髪に挿すこともしないで、お帰りになられるのでしょうか。
すでに古都となってしまった明日香京にて、気心が通じあった都から来た男と、尼になったばかりの女たちが宴会を開き、詠んだ歌。
具体的な人間関係は不明、親子か、恋人同士か。
丹比真人国人が、政治上か、何らかの理由で、関係のある女性たちを古都の豊浦寺にかくまったのかもしれない。
特に沙弥尼たちの歌には、惜別の情があふれている。
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